カミツレ図書館



堂郁の日!堂郁祭!


【猫かわいがり】5のお題


1.独占欲の甘い蜜


「ただいま」
「おかえりなさーい」
 部屋の中から明るい声に出迎えられて堂上は思わず頬を緩めた。靴を脱いで部屋に上がるとふと玄関の隅に置かれている大きな紙袋が目に留まった。
 不審に思いキッチンに立つ郁に訊く。
「郁、この紙袋なんだ?」
 すると振り向きながら郁がクスリと笑った。
「うちの兄もでしたけど篤さんもやっぱりそうなんだ」
 なにがだと問おうとしたところで作業の手を止めた郁がこちらにやってきた。
 紙袋の中身を取り出して俺にそれを見せる。郁の手にシンプルだがセンスの良いデザインの箱があった。
「明日バレンタインデーだから隊のみんなに配ろうと思って」
 郁のその発言に納得はいったものの多少不満が募る。
 毎年バレンタインは隊員が多いこともあって徳用袋のチョコレートを茶菓子兼用の義理チョコとして配っていたはずだ。いったいどういう心境の変化だ?と内心首を傾げる。
 堂上の怪訝な顔の意味を理解したのか郁が言葉を繋げた。
「私も三正になったし今までは茶菓子兼用にしてたけどちゃんと配ろうかなって。やっぱりお世話になってるのに変わりはないし」
「そうは言ってもかなり量あるだろ?」
「でも最近はお手軽な値段で買えるものもあるから」
 郁はそう言って袋の中からチョコレートの箱を取り出すと嬉々と話しだした。
「これはねー熊のチョコレートが入ってるから玄田隊長でしょ、でこれは小牧教官、手塚、これとか緒形副隊長っぽくてね」
 言いつつ顔を綻ばせる郁がなんとなく面白くない。
「そうか」
 堂上はそれだけそっけなく返した。リビングに足を踏み入れたところで後ろから郁に抱きつかれた。
「篤さんのだけ手作りなんだよ」
 堂上の肩に顔を埋めながら郁が甘ったるい声でそう呟く。
「柴崎と一緒に作ったの」
 見透かされているのかそうではないのか。恐らく後者であろうが。
 こういう時に堂上の機微を感じとったかのような郁の言動に弱い。内心ぐらっときた。
 そして今は二人きりでプライベートだ。遠慮する理由はどこにもない。堂上は体を反転させると正面から郁を抱き締めた。郁はされるがままになり堂上に抱きつき直す。
「ああ、楽しみにしてる」
 そう言って少し体を離し郁の頭を優しく撫でると郁が嬉しそうに満面の笑顔を浮かべた。
 三十路を過ぎて結婚までしておきなが俺も大概大人げないな。いつでも郁を独占していたい。
 暦の上では立春が過ぎたがそれにしても二月だ。まだまだ寒い。郁の体温が心地良かった。
 堂上は今夜も郁と一緒に寝ようと郁を再び抱き締めると先程よりも抱き締める腕に力を込めた。


2.愛の無条件克服(降伏)


「ずるい」
 そう言って彼女は俺を下から目線で睨みつけた。正直ずるいのはどっちだ、と言いたくなる。
 女としての武器をここぞという時に巧みに使ってくるくせに、彼女はそれをまったく計算せずに天然でやっているのだから恐ろしい。
「あたしが篤さんのその顔に弱いって知っててやってるんでしょ!」
 その顔ってどの顔だ、と訊こうとしたがやめておいた。それを訊いたら今目の前にいる郁はへそを曲げるに決まっているからだ。
 そもそも目の前の郁の顔にこそ俺は弱い。
 あまりに可愛らしい反応をするものだからついついからかってしまうのだが、
 どんなに相手から一本取っても最後は必ずこちらが負けるのだ。郁がその武器を無自覚で繰り出してきたらもう勝負は決まったも同然である。
 別に勝負をしているわけではないのだが俺は負けを認める。
 降参だ。俺は白旗を上げた。

「郁、悪かった。ごめん。からかいすぎた」

 そして俺はいつもの和解の台詞を申込んだ。



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