30000hits感謝!堂郁の日祭り! 【距離にして0cm】5のお題 1.言ってしまえばこんなものかと (戦争) 「あたしはあんたを越えるんです。だから絶対やめません」 ずっとやめさせようとしていたのに。図書隊に理想を求める郁が傷付くのを恐れて。 だが郁はそんな堂上の想いを打ち消すかのように言いはなった。 完敗だ。負けを認めよう。あれだけ遠ざけようとしていたのに。お前が図書隊に残ってくれることがこんなにも嬉しいと思う。 そして。越える?誰をだ。お前は俺の背中も見てくれるのか、と。 それでも込み上げてくる嬉しさに蓋をするように頑なにそれを拒んだ。お前が追いたい背中は俺ではないだろうと。お前が目指している、乗り越えようとしているのは俺ではないのだろう。別の背中を追いたいくせに。 それは僻みのように思えて堂上は内心舌打ちした。 あのときの三正はもうどこにもいないのだとそのことを言ってしまえたらどんなに楽だろうと思う。だがそれがどれほど郁を傷付けることになるか、知っているからこそ言えない。 堂上と郁のやりとりを横目でみながら小牧はそれが杞憂であると思う。堂上の気持ちを理解しながらも。 いつか、正体を明かす時が来るであろう。その未来はきっとそう遠くない。そのとき堂上は実感するだろうよ。 「言ってしまえばこんなものかって」 堂上のその杞憂は二年後郁本人によって打ち砕かれるということを今この時点では誰にも分かることではなかった。 2.目隠ししてもわかる人(内乱〜危機) その利用者は最近図書館に通い始めたにも関わらず図書館員の間では知らぬ者はいなかった。その利用者はいわゆるクレーマーだ。 理不尽なことを言っては図書館員を困らせていた。 いくらクレーマーだと言っても利用者相手に図書館員が強く出ることは立場上弱いため中々できない。 つけてくるクレームは実に些細なことだがこちらに問題がある身としては対応せざるおえないでいた。 要注意利用者とすることもできないし業務部でもお手上げ状態である。 とりあえずは様子見ということになっていたが良い打開策はまだ見付かっていない。 特殊部隊にもその話は届いていたのでこのクレーマーの存在を知らない者はいなかった。そしてそれはもちろん郁とて例外ではなかった。だから今この状況に陥ってしまったのは郁が迂濶であったとも言える。だがそのクレーマーが理不尽すぎるのも明白であった。 どうしよう、どうしよう!とりあえず謝るべき!? 混乱しきった頭の中ではそれだけしか思いつかず目の前でいきりたつクレーマーに郁は思いきり頭を下げた。 「すみません、すぐに直しますので」 本と本の間にたまたま奥の方へ押しやられていた本がありその本が見えなかった、というのがそのクレーマーの言う文句であった。 正直たくさんの書架が立ち並ぶ中、本の整理が全ていき届くはずもなく、そして直しても利用者がいればまた本の配列が乱れるのは致し方のないことで、それはかなり理不尽かつ些細なクレームであった。 「まったく、図書館員はきちんと仕事をしてほしいものだわ」 はき捨てるように言われたその言葉にかちんときた。だがここで怒ってしまっては逆効果だ。 郁は辛抱強く頭を下げ続けた。郁が頭を下げ続けているにも関わらずクレーマーの文句は怒号のように続く。もはや文句のつけどころは先程の本の話ではなくなっている。 図書館がこんなだからいつまで経っても良化法はなくならないだの、論点がずれてエスカレートしてくる文句にもはや郁の我慢は限界に達した。 思わず顔を上げ言い返しそうになったところで郁の頭上に手が乗った。そのまま下へと圧力をかけられる。 瞬間的にやばいと思った。今この瞬間にその手の持ち主が分かってしまったから、張っていた虚勢が容易く傾ぎそうになった。思わず瞳がうるむ。 「申し訳ありません」 そう言って郁の頭を押さえつけた人物が隣で同じ様に頭を下げる気配がした。そして頭を上げる。ほぼ同時に郁の頭を押さえつけていた手が離れた。郁も恐る恐るといったていで顔を上げる。 「以後気を付けます」 相手はこちらの威圧的態度に気圧されたようで一瞬怯む気配を見せた。 「分かればいいのよ」 クレーマーはそう負け惜しみのような捨て台詞を吐くと気まずそうにそそくさとその場を去っていった。 「すみません、堂上教官」 「いや、この場合は無茶なクレームを言ってくるあの利用者のほうが不道理だからな。お前にしては耐えたほうなんじゃないか」 堂上はそう言って垂れている郁の頭をぽんぽんと軽く叩いた。 ああ、もう。なんだってこの人はこんなにタイミングがいいんだ。郁がトラブルに巻き込まれたときは必ずと言っていいほどかけつけてくれるこの上官は郁が困っているときには必ず正義の味方のように助けてくれる。 その背中はいつだって大きく追い越そうと追いかければ追いかけるほどどんどん遠ざかっているかのような錯覚さえ覚えた。 郁は知らずに自分の唇を噛んでいた。これくらい一人で対処できなければいつになってもこの人の背中を越えられない。 焦って追いかけようとすればするほど絡まるばかりでその間にも堂上は郁の前のどんどん先を歩いている。 「追い付かれそうで焦っているのはこっちのほうだ、バカ」 ふいにかけられたその言葉に郁の思考がはたと止まった。自分の考えを見抜かれたようなその言葉に郁は思わず顔を上げそうになる。それを堂上の手が強く押しとどめるように郁の頭をかき撫でた。 「仕事の続き、さぼるなよ」 堂上はそう言うと最後に郁の頭を軽くぺんと叩いた。 「たっ!さ、さぼりませんよ!」 郁が噛みつくように言い返すといつもなかなか見ることのできない上官の顔がそこにはあった。そのまま郁を置いて去って行く。 あたし、なんであのとき堂上教官だって分かったんだろう。あのときそばに堂上教官がいたわけじゃないのに。なんで来てくれたとか…。 自分の思考に困惑しつつ郁は自身の頬を軽くパシンと両手で叩くと続きの業務に戻った。 郁がそれを理解するのはもう少し先のこと。 後日談 クレーマーはあの日を境に図書館に現れなくなった。どうやら堂上のあの揺るがない強気な態度に屈服したようだ。 あの日からほぼ訓練付けだった郁はルームメイトの柴崎からその情報を聞くことになった。 「さすが番犬ねぇ」と呟いた柴崎の言葉は本人には絶対に聞かせられない、と郁は戦くのであった。 ページのtopへ 3.ここに居るよ もう逃げない(危機) もういいのではないか。 王子様卒業宣言を自分に向かって宣言した郁を思い出す。あの頃の自分をずっと慕い続けていた郁に今の自分を認めてもらい、堂上は自分の頬が緩むのを感じた。 ならばもうこちらから動いてもいいのではないか。もしかしたら郁が自分に振り向いてくれるかもしれない。そんな淡い期待が広がる。 「店に飲みにつれていってほしい」というのはただ純粋にカミツレを飲んでみたいという思いはもちろんあったが、それだけでなく下心があったのは明白だ。 カミツレをよく店に飲みに行くといった郁にしかその役目はできないわけで。 堂上は歩きながらさきほど郁から受け取り今自分の手の中にある小さな小瓶に視線を落とした。 思わず笑みが零れたところで事務室前のドアに自分が立っていることに気が付いた。 自分の席に着くと手にしていた小瓶を机の上にそっと置く。柄にもなく気持ちが浮上していくのが分かった 誘いに対して返事はなかったものの断られなかったことに内心安堵する。 あいつのことだからすぐに忘れるかもな。 「あたし好きなんです」という郁の言葉に思わず即答で自分もだと返してしまった。カミツレの香りが好きだという意味以外に言外の意味を含ませてしまったことは否定できない。 伝わらなくてもいい。まだ伝わらなくていい。だがいつかは伝わって欲しいと思う。 ずっと王子様の単語を言い続ける郁からその王子様から逃げていた。だがお前が今の俺を認めてくれるならもう逃げない。もう逃がさない。 堂上が日報を書き始めたところで小牧が事務室にちょうど入ってきた。 堂上の机の上の小瓶を目敏く見つけた小牧は口を開いた。 「どうしたの?それ」 「笠原にもらった。筆記を見てやったお礼らしい」 いつもより堂上の声が弾んで聞こえるのは長年連れ添った友人である小牧だからこそ分かることだ。 小牧は「ふうん」と意味ありげに頷いた。その意味ありげな様子に堂上は一瞬しまったと思ったが小牧の次の言葉は堂上が予想していたものとはまったく異なったものだった。 「それ、アロマオイルでしょ?」 「なんだ、お前、知ってんのか?」 堂上が素で尋ねると 「毬江ちゃんが結構そういうの好きで見せてもらったことあるからさ」 小牧から返答が返ってきた。 「なんの香り?」 「カミツレだ」 「あーそっか。図書隊に相応しいね」 小牧はそう言うと堂上の向かいの自分の席に着いた。 拍子抜けした堂上にその当日、今日の分のからかいが入ることは今の堂上には知る由もなかった。 4.すみません><;準備中です;; 5.奪われてくれますか?(革命) 「何やってんだ、アホゥ」 堂上は笑いながら郁の手を引いた。 先ほどから妙に店内が込み合っていて、郁はことあるごとに人にぶつかり、そのたびに「すみません」と会釈をしていた。 どうやら堂上は郁のその様子をずっと気にかけていたらしい。手を引かれるままに郁は堂上のそばに引き寄せられた。ほぼ腕を絡めるに等しいその状況に郁は眩暈がしそうになった。 量らずも好きな人にこんなことされたらくらくらするのはあたしだけじゃない!と勝手に断言して郁は赤くなる顔を必死で隠した。 こんなふうに優しく笑う堂上は滅多に拝めない。 教官は彼女にはこんなふうに優しく笑いかけるのかな。 そんなことを考えて郁はハッとした。いや、別にあたしが彼女なわけじゃないから! またしても間違った考えに流されそうになって郁は頭を振った。 今この人の隣にいられることがこんなにも嬉しい。いや、任務だって分かってるんだけど! 図々しいとは分かっているがこのポジションが欲しいと思ってしまった。 そういえば堂上教官てどういう女性が好みなんだろう。そこでふとそんな疑問が浮かんだ。せめて堂上の好きな女性のタイプくらい知っておきたい。そしたらそれに向けて少しは努力できる。 いや、うん、分かってる!分かってるから言わないで! 郁は誰彼構わず心の中で弁解した。自分がそこまで女性らしくなれるとは思っていない。柴崎の交際の申込みを断わるくらいだ。正直好みのタイプを聞くのが怖い気もする。 何か良いタイミングで聞き出せたらいいのだが。 郁はくっつくように密着して隣を歩く堂上をちらりと見た。さりげなく郁が人とぶつからないように誘導してくれていることに気付いてまた勘違いをしそうになる。 こんなふうに手を繋いで一緒に歩けるだけでも幸せだ。 白髪染め売り場を目指していて郁はふと思いついた。好みのタイプを直接直球で聞くのはあまりにも唐突であるし勇気がだせない。そのため聞くのにどうも憚られた。 ならば。 「教官」 「なんだ」 「堂上教官は短い髪と長い髪どっちが好きですか?」 「なんだ、いきなり」 堂上は郁のその問をどう解釈したものか悩んでいるようだった。 「え?いや、なんとなく?」 考えてみればこれはこれで物凄く唐突であるし不自然な質問だ。 「別に本人に似合っていれば俺は長くても短くても良いと思うぞ」 堂上は前を見据えたままのていでそう言うとふと郁を振り返った。 「のばしても似合うんじゃないか」 繋いでいないほうの堂上の手が郁の耳元の髪に軽く触れた。郁の心臓がどきんと跳ねる。堂上はそう言うや否や 「ああでも、この髪型はお前らしくていいな」 郁の頭をくしゃりと撫でると微笑を浮かべた。 うわ、何その殺人的な顔! なんとなく二人して立ち止まってしまっていたので再び一緒に歩き出す。 郁は堂上に触れられた所に繋いでいないほうの手をやると自分の頬が緩みきっているのを自覚した。 自分でも現金だと思う。ああ、この人、あたしを喜ばせる天才だ。やっぱりあたしこの人が好き。この恋が叶ったらいいのに。 堂上教官、あたしに奪われてくれませんか? 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