カミツレ図書館

     君の良い所でもあるけれど



「あ、すいません。ありがとうございます!」

 郁はそう言うと笑って本を受け取った。郁からのお礼を受けると男性図書館員はきさくに笑みを浮かべて去っていった。
 先ほど図書の配架をしていたときに持ちすぎた本を誤って落としてしまい、それをたまたま近くにいた図書館員が拾って郁に手渡してくれたのであった。
 少し遠くからその様子を見ていた堂上は眉間に皺を寄せた。すでに足は郁のいる方へと向いている。
 隣で同じように配架作業を行っていた小牧がそれをすかさず指摘した。
「堂上、眉間に皺寄ってるよ。閲覧室で怖い顔するなって」
 苦笑混じりの小牧のその言葉に堂上は我に返りこめかみを軽く解した。そうして元の書架に向き直る。
 先ほどの続きの配架作業を開始すると小牧が小さく笑う声が聞こえた。
「何だ」
 堂上が不機嫌な声で言うと
「いやー、番犬は怖いなーと思ってさ」
 そう言って小牧はまたクスクスと笑った。
「誰が番犬だ!」
 堂上は声の大きさに気をつけつつ強く吐き捨てるように言い放った。
 小牧はそんな堂上の様子を見ると今日の笠原さんはとばっちりを受けるな、とちらりと郁に目を向けた。


「だっからなんでですか!」
 堂上と郁以外に事務室に残っていた最後の一人―小牧が日報を書き終え事務室を出るや否や郁の怒鳴り声がドアを閉めているにも関わらず漏れ聞こえてきた。
 小牧はやっぱり、と苦笑する。
 そして「まぁ気持ちは分からなくもないけどね」そう呟くと歩き出した。



「だっからなんでですか!理由を言って下さい」

 我ながら今の要求は確かに理不尽だったと思った。直球派の郁に回りくどい言い回しも通じるはずがなくとうとう郁は堂上に怒鳴り声を上げてきた。
 直接郁に分かるように言えばすむことだったのだがこんなことくらいで、と思うとなんとなく素直に言えなかったというのが本音だ。
 堂上が郁に持ちかけたのは「誰彼構わず笑いかけるな」というものだ。そして意味が分からない郁は案の定質問を返してきた。
 小競り合いになってから郁が声を上げた。
「利用者に無愛想な図書館員とかありえません!」
 確かにその通りだ。
「だから利用者は構わん」
 そう言って堂上が腕を組むと郁は益々首を傾げた。 「利用者に愛想良くするのは構わんが図書館員相手にまで愛想良くする必要はないだろう」
「あれは!本を拾ってもらったからお礼を言っただけです」
 昼間のやり取りを見られていたらしいことに気づいた郁は堂上も見ていた通りのことを話した。
 確かに。確かにそうなのだが。あれは…。
「お前な、あれはやめてくれ」
「何がですか!」
 もはや噛みつく姿勢になった郁は肩を怒らせている。
 自分でも公私混同な発言に内心少々苦りつつ堂上は郁の腕を掴むとこちらに引き寄せた。郁は堂上のその行動を予想していなかったのであろう。こちらに簡単に傾いてきた。

「ああいう可愛い顔では笑いかけるな、とくに男には」

 郁の耳元で囁くように言うとさらにこの展開からは堂上のその言葉を予期していなかったようで郁は一瞬目を瞠ると真っ赤になった。
 ようするに、だ。最近隊内でも女性としての好感度が上がってきた郁の可愛らしい一面をこれ以上他のやつらに見せたくない、という堂上の単なる嫉妬と独占欲だ。
 我ながら自分の嫉妬深さに恐れ入った。

「そういう顔は俺の前でだけにしろ、分かったか!」

 堂上はそう言うと照れ隠しに郁の頭をくしゃりと撫でてそっぽを向いた。




 fin.









           お題:向こう見ずな十の危険より「君の良い所でもあるけれど」
           三菱榧様主催の企画、秋風ノート様に恐れ多くも投稿させていただきました。
           お題に沿えていない感丸出しですが、その辺は目を瞑って下さると嬉しいです;;
           革命〜別冊Tの付き合い始めあたりの堂郁を書きました。
           相変わらず、やきもち焼きのどじょ好きですいません^^;
           公私混同気味な教官ですみません;;イメージ壊れてなきゃいいけど…(汗

           素敵企画、秋風ノートにはこちらからどうぞ!素敵な作品をたっぷりご堪能くださいw
           

           2008.09.28