カミツレ図書館

     甘やかしたい



「ただいま」
「おかえりー」
 ぐったりしたような夫の声が聞こえて郁は声の主を玄関先で出迎えた。
 明日は二人そろっての公休だ。そのせいもあってか今日の夫は仕事場で散々な目にあったようだ。
 仕事に関しては有能すぎるくらいの夫はもちろん上司から多大な信頼を寄せられていて。責任感ある誠実な人だからこそ頼りにもされるわけだが。正直夫の上に立つある意味有能すぎるくらい有能な上司も手加減してほしいものだ。
 疲れた顔をしている堂上に「お風呂沸いてるよ。先に入るでしょ?」と笑顔で問いかけるとほっとしたように笑みを浮かべて堂上は「ああ」と答えた。
 その様子から今日玄田に押し付けられた書類の山が半端な量でなかったことは容易に想像がついた。自分も手伝えたらいいのだがそっちの面では足を引っ張りかねない。
 リビングまで二人して歩いてくると堂上はどさっとソファに腰かけた。
 目を瞑った堂上の頭に郁は手を伸ばした。それは普段は郁が堂上にやってもらう仕草で郁が堂上にやったことはまだない。
 堂上の疲れが少しでもとれたらいい、そんな願いを込めて堂上の少し癖のある髪もろとも頭を撫でてみた。
「よく、頑張りました」
 郁がそう言うと堂上が一瞬驚いたように目を開けてそれから甘い微笑を浮かべた。
「たまにはしてもらうのも悪くないな」
 郁はえへへと照れ笑いを浮かべる。
「少しは疲れとれた?」
 郁がそう言うと堂上は郁の撫でている手を掴み郁の体を引き寄せると抱き締めた。耳元で「ああ、かなりな」と囁く堂上の低い声がする。その声には疲れは残っておらずただ甘い響きを持っていた。
 いつも頭を撫でてもらってたくさんの幸せを堂上からもらっているが反対の立場になってみて郁はその幸せが少しでも堂上に伝わっていればいいと思った。
「可愛い奥さんに癒された」
 わ、なんか今日の篤さん、甘えん坊だ。可愛い。
 ふとそんなことを考えていると背中に回されていた堂上の腕が緩められた。
 不思議に思い体を少し離し堂上の顔を見て郁は自分の額から冷や汗が流れるかのような錯覚を覚えた。後ろへ退こうとした刹那堂上は郁の体をひょいと持ち上げた。
「それじゃあ今日は仕事の疲れを可愛い奥さんに充分に癒してもらうとするかな」
 そう言って郁をお姫様だっこ状態で堂上は歩いていく。
「え!?ちょ、ちょっと篤さん!?」
 慌てふためいて郁は声をかけるが堂上の歩みが止まる気配は微塵も感じられない。さらに向かっている場所が分かって郁は声を上げた。
「どこ行く気ですか!?」
「癒してくれるんだろ?明日は公休だからな、この疲れを充分に癒せるなぁ?」
 そう言って堂上はもはや清々しいほどの笑みを浮かべた。そのセリフと笑顔の意味が分からないほど堂上の性格を理解していないわけではない。
 なにやら郁は堂上の何かのスイッチを入れてしまったようだ。先程心の中で思っていたはずの郁の呟きも堂上にはだだ漏れのようだった。意地悪く微笑む堂上の顔はやけに嬉しそうで。
「篤さんのバカ!充分元気じゃない!」
 郁が真っ赤になって絶句するのと堂上がからかうように「頑張ったときたまには褒美くらいもらってもばちは当たらないだろう」と不敵ににやりと笑って見せたのはほぼ同時だった。





 fin.









           えっと、このSSは一応10月11日の拙宅の茶会にお越し下さった皆様に限りフリーとさせていただきます。
           先日の茶会は本当にありがとうございました!
           遅くなってしまいましたが参加してくださった皆様へ感謝の気持ちとそしてお詫びの気持ちを込めてv
           お茶会メンバーの皆様に多大な迷惑をかけてしまったことのお詫びと感謝の気持ちを言いたくて拙宅初のフリーSSとしてupさせていただきましたw
           もし少しでも気に入っていただけたらどうぞお持ち帰りください><*
           本当にありがとうございました!

           2008.10.21