郁は雑誌とにらめっこしながら、自分がよくお茶を飲みに行くお店とどっちがいいか考えていた。郁がよく行くお店は二、三件あったがその中でも郁が一番気に入っているお店があった。
「よし、決めた!」
思わずそう声に出した瞬間、いきなり耳の傍で囁かれた。
「デ・エ・ト?」
郁の肩がビクッと跳ね上がった。振り向くと柴崎がにやにや笑みを浮かべながらこっちを見ている。あんたはおっさんか!心の中でつっこみながら
「そんなんじゃない!」
郁は反射的に声を上げた。
「あら〜じゃあどんなの〜?」
などとまだにやにやしている。
「べっつに…」
郁は動揺しつつも言葉を濁した。柴崎は「まさかあっちから先手がくるとは」「順番もとばしてるわね」などと訳の分からないことを呟いている。
「デートならちゃんとオシャレしてかなくちゃねー。あたしにまかせればとびきりかわいくしてあげるわよー」
とウインクされた。
「何の話だ!もう!どっか行け!」
郁はしっしっと手を振った。柴崎は不服そうに「ジュース買ってこよう〜」と言って立ち上がった。
「せっかくなんだから楽しんできなさいよ〜♪」
柴崎のそのからかい口調が聞こえたかと思うと部屋のドアがバタンと閉まった。どこまで知ってるんだか、と郁は正直
まったく、隠してるつもりだろうけど、あんなに浮かれた顔してるんじゃバレバレね。さぁて、先に云うのはどっちかしらね〜。柴崎はスキップしながら自販機に向かった。
当日にピタリと言い当てられてとうにバレていたと郁が知るのはもう少し先のことである。
〜おまけ〜
その日柴崎をたまたま見かけた手塚はというと…
あいつがあんなに機嫌が良いなんて気持ち悪いな。
なんか不吉なことでも起こりそうだ…。などと呟きながら男子寮に戻ったという。
fin.