カミツレ図書館



     その魅力は衰えず





 それは堂上が帰宅して早々に始まった。


「やだ!私がおばさんになったら篤さんは若い子のほうがよくなっちゃう!」

 郁がこんなことを言い出したのはきっと郁の教育隊に所属していた吉田の話が影響している。
 最近急速に人気の出てきた若い女優が年齢問わず世間の男性に評判らしい。男子寮ではその女優の記事が掲載されている雑誌が出回っているようだ。寮を出てしまった堂上には直接にそれを知る機会はなかったのだが。
 それを昼食時に聞いていた郁は事を堂上にも当てはめたらしい。そのときはみんなのいる手前言い出せなかったのであろう。
 それで帰宅後か、と納得する。
 目尻に涙を滲ませながら力説する郁を見て何を馬鹿なことを、堂上はそう思った。

 そんなこと――堂上の心変わりなぞを気にして泣き出してしまうような可愛らしい妻がいるというのに誰が心変わりなぞするものか。

 目の前の郁は堂上の思いなど露知らず、今にも溢れ落ちてしまいそうな涙を流さんとばかりに必死に堪えているようだ。
 なんだ、この可愛らしい生き物は。
 堂上が多少呆れたような口調でそれを否定すると「だって!だって!」と郁はまだ食い下がる様だ。
「分からないよ?今はそうかもしれないけど、この先私よりぴちぴちに若い子に出会って私より可愛くて胸が大きい子なんかに告白とかされちゃったら篤さん、絶対断れないでしょう?」
 追い縋るような涙目で見つめられる。その瞳には確信とともに否定を求め期待する気持ちが混ざっていることが堂上には簡単に見て取れた。堂上にしてみれば郁のそのふざけた理屈に笑いさえこみあげてくる。
 こいつは…俺がどれだけお前に惚れ込んでいるのか分からないのだろうか。
「その理屈はどっから出てくるんだ、アホゥ」
 郁の頭を軽く小突いて窘めてやると堂上の否定ととれる言葉に少し安心したように肩の力が抜けた郁がこちらに擦り寄ってきた。
 むしろそれを心配しているのはこっちのほうだと言いたくなる。
「お前、今日利用者に結婚してること驚かれてたろ」
「へ?」
 先ほどと話題が変わったことに郁の思考はまだ追い付いていないようだ。堂上の胸に埋めていた顔を上げ小首を傾げる。
「ああ!」
 そこで郁は思い出したように声を上げた。
 昼間図書館に来ていた男性利用者に照れたように新婚二年目だと告げていた郁は鈍くて気が付いていないようだったが、

 あれは明らかに…

「あれはお前狙いだったろ」
「えぇ!?何言ってるんですかーそんなことあるわけないじゃないですかぁ」
 へらりと笑う郁に心底溜め息が出る。結婚しても郁は自分の魅力に無自覚なのだから夫である堂上にしてみれば気が気でない。
「いーや!あれは狙ってた。お前、結婚しても他の男に狙われるくらいなんだぞ!何が若い女に俺が心変わりするだ、アホゥ!そこまで魅力的な妻が近くにいてそんなことあるわけないだろうが!」
 その鈍さがまた可愛いところの一つでもあるのだが。
 巻くし立てるようにそう言うと郁は真っ赤になって俯いた。堂上はそんな郁を抱き寄せる。
「お仕置きだな」
 不敵に笑ってそう郁の耳元で囁くと郁はばっと囁かれたほうの耳を自身でかばう。口をぱくぱくと動かして何も反論できないようだ。
 手を突っ張って堂上から離れようとするがそれを許さんとばかりに堂上は郁を抱き寄せる腕に力を込めた。何か良からぬことを企んでいると郁も察したのであろう。ここまで仕込むのにどれくらい時間をかけたことか。これを教え込んだのも自分だ。
 郁は堂上に何をされるのかを想像して慄いている。
「そもそも、お前がおばさんなら俺はおじさんになるだろうが。誰がおじさんなんか相手にするんだ」
 苦笑をしながら言うと

「篤さんはおじさんでもかっこいいもん…」

 郁はふいと顔そらしながらそう呟いた。堂上は目を見開くと勘弁しろと胸中呟く。
 郁を胸に抱き寄せたままごろんと後ろに倒れた。郁は何が起こったのか分からないというように「え?え?」と声を漏らしている。
 堂上は郁の頭を自分の肩に埋めさせると
「その言葉、そっくりそのままお前に返す」
 さらに郁を抱きしめる腕に力を込めた。











fin.








           堂上さんは奥さんが可愛くてしょうがなくて心変わりなんてするわけがないのにね!w
           そこを気にしちゃうのが郁ちゃんかなと思ったのですがw
           「胸が大きい子」とか言っちゃう郁ちゃんv今はそこは関係ないだろう?w^^
           原作とかけ離れてたらすみません;;
           堂上が別人になってたらすみません><;書いてたら自然と…^^;
           リハビリリハビリっと…(ボソボソ)^^;

           2009.04.02