カミツレ図書館

     あなたにならまかせましょう


 茨城県展警備出発前日。明日に備えての訓練が終わり堂上が男子寮へ戻ろうと男女共同スペースを通りがかろうとした時だった。ふと前方に郁のルームメイトがソファに座っている姿が目に入った。
 彼女は堂上に気づいて座っていた腰を上げ立ち上がる。
「どうした?」
 堂上が声をかけると
「ちょっとどうしても堂上教官に言っておきたいことがありまして…」
 柴崎がそこで言葉を切った。堂上が近くまで来るのを待っているようだ。
 堂上が柴崎との距離を縮めると、唐突に話を切り出した。
「堂上教官、茨城では笠原によく注意してあげてください。たぶん水戸本部では笠原は完全に部外者だから、査問会の時よりも直接的な攻撃がくる可能性があると思うので」
 そこで柴崎が言おうとしていることを堂上は悟った。ここで堂上をわざわざ待ち伏せていたところをみると早くそのことを伝えておきたかったという姿勢がありありと分かる。
「ああ。分かった」
 堂上は短く答えた。状況は芳しくないようだ。向こうへ行ったら自分がフォローできるところはなるべくしようと思ってはいたが。
 その答えを聞くと満足したようで柴崎は、私の代わりに笠原のことお願いします、と告げるとくるりと背を向けて女子寮のほうへと歩き出した。
 二、三歩歩いたところで柴崎がふと立ち止まった。そうそう、と思い出した風に言うと堂上のほうへ振り向いた。極上の笑みを浮かべ
「笠原が心配だからって向こうの女子寮に夜這いかけたらだめですよ〜」
 柴崎は言いながらまた背を向け去っていく。
「するか、アホウ!」
 堂上が慌てて怒鳴る声を柴崎は片手を振ってあしらうと立ち止まらずにそのまま行ってしまった。
 最後にはあんなバカなことをぬかしていったがそれもこれから笠原におこるだろうことを考えると気が気じゃないんだろう。自分がそこには行ってやれない分本当はすごく心配しているに違いない。
気丈な振る舞いで去っていく柴崎を見て堂上は思うのだった。


fin.





            茨城県展警備出発前に堂上が柴崎とした会話を妄想して。
            柴崎はきっと郁が心配でたまらなかったと思います。
            本当は自分がなんとかしてあげられればとか思っていたに違いない。
            だから堂上にならまかせられると思って郁のことを頼んだのではないかなーと思いました。
            柴崎も堂上教官も郁ちゃんラブですもんね!

            2008.04.29