カミツレ図書館



     ターゲット





 ガチャガチャと玄関から音が聞こえて郁はソファーから立ち上がった。
 今日は特殊部隊内での呑み会だったのだがなにやら女子禁制だ、と言われ(もっとも女子と言ったら郁しかいないのだが)郁一人早々に仕事を定時で上がらされたのだ。その後特殊部隊の男共はなにやら楽しそうに呑み会の店に出かけて行ったのだった。
 郁は不満ではあったが郁もよく柴崎と呑むように恐らく男たちだけで呑みたくなることもあるのだろう。渋々郁が身を引くと夫である堂上も郁が参加しないならと断ろうとした。だがその刹那、隊長である玄田に堂上はがっちりと捕まった。なかば強制的に堂上は参加することになったのだった。
 時刻は11時を回っているが郁はなんとなく堂上が帰ってくるのを待っていた。
 郁が玄関に向かうまでに扉が開いて閉まる気配がしたがいつもと何かが違う気がした。いつもならばここで「ただいま」と言う声が聞こえてくるのだが今日はそれがない。不審に思いつつ玄関にたどり着いて郁は目を見張った。
「ちょ、篤さん、大丈夫!?」
 そこには明らかにいつもと様子の違う堂上がいた。郁が駆け寄ると嫌な臭いが鼻についた。
「うわ、篤さん、お酒くさ!」
 堂上は玄関の狭い壁に片手をついて立ち上がっている姿勢でいた。いつもの堂上ならばありえないことだ。そもそも酒には人一倍強い堂上のこんな様を見るのは郁には初めてだった。
 とにかく水!そう思って郁が台所へ向かおうとした刹那堂上に手を掴まれた。そこからの力は凄まじかった。堂上は郁を壁に押し付けた。目が据わっている。
 ちょ、これそうとう酔ってるんじゃ…。ていうかなんでこんな状況になってるんだ?
 郁が珍しく冷静に頭を回転させているとリビングで電話の音が鳴り出した。
「とにかく、落ち着いて。お水持ってくるから、あと電話も鳴ってるし…。篤さん?」
 郁が伺うように堂上に言うとここへきて初めて堂上が声を上げた。
「お前は全然分かってない」
 なんのことを言っているのか郁には皆目見当がつかない。とにかくこの状況はまずい。郁は堂上の手を解こうとしたがその手はびくともしなかった。
「お前は俺がどれだけお前を…」
「え!?ちょっと待って?篤さ…」
 そこから先は堂上に口を塞がれて声にならなかった。電話の音がやけに遠くで聞こえる。何が起こったのか頭がなかなか追い付いてこない。
 そうこうしているうちに堂上の手が郁のパジャマにかけられていることに気がついて郁は慌てた。え、待って!もがこうとするも圧倒的な堂上の力に押さえつけられて身動きがとれない。
 あ、篤さんなんか様子がおかしい。ていうかこんなとこで!?突っ込みどころはそこではないと分かってはいるがいきなりのことで頭が真っ白になる。
 いや、嫌なわけじゃないんだけど!ていうかこれも違くて!
 いよいよ息が詰められなくなったところで堂上は不自然に郁から離れた。
「……吐く」
「え!?ちょ、篤さん大丈夫!?えっとえっととにかくえっとトイレ?」
 郁はそう言うと急いで堂上をトイレに押しやった。
 とりあえず先ほどから鳴り続いている電話に出ようとリビングに戻ると郁は受話器に手を伸ばした。
 電話の相手は郁の直属の上官である二人のうちの一人―小牧だった。
 そこであらかたのことは分かった。
 まったくなんてたちが悪いんだ、あのおっさんたちは!郁はここに上官たちがいないのを良いことに心の中で堂上があのようになった原因である上官たちを口悪くののしった。
 だから女子禁制とか訳の分からないことを。
 それにしても人を酒の肴にするなんて!郁は拳を握ると次に顔を会わせたらなんと言ってやったものか思案し始めた。
 そこでようやく堂上が戻ってきた。郁と目が合うと「…すまん」そう一言呟く。
「や、嫌なわけじゃなかったんですよ?ただいつもの篤さんらしくなかったから」
 微妙に恥ずかしいことも言ってしまった気がしたがそこは流してもらえたようだ。堂上はああ、と苦笑する。
 明日が公休だから良かったものの勤務日だったらたたじゃすまない。悪乗りしすぎでしょ!これは!
 堂上はそのあと「悪い先に休む」と言うと寝室にそのまま直行した。

 その日の呑み会のターゲットは主に堂上だったらしい。郁関係のことを根堀り葉掘り聞き出されてはからかわれたようだ。だから自分が外されたのかと郁は後から理解した。そのため堂上もいつもより酒の進みが早かったようだ。
 それを止められなかった小牧もさすがにやりすぎだと思ったのだろう。今日の呑み会についてあらかた説明をして郁に謝罪をしてきた。
 にしてもこんなになるまで呑むなんて…いったい何を吐かされたんだ!?  いつも狙われて軽く吐かされるのは自分のほうなのだ。もっとも郁の知らないところで堂上が郁とのことをからかわれていることを郁は知らないのだが。
 翌日堂上はすっきりとした顔でリビングにやってきた。昨日吐いてぐっすり寝たら良くなったらしい。郁は堂上のその様子にほっとした。
 さすが酒についても伊達に鍛えていない。

 そしてその夜郁の言動もばっちり覚えていた堂上が「嫌なわけじゃないんだよな?」と爽やかな笑みを浮かべながら郁を追い詰めたのは言うまでもない。











fin.








           ブログからの再録です。
           置き土産としてずっと前にブログのほうに置いていたのですが、実はこれ、サイトに再録をするのに悩んでいました。
           制限をするほどではないですが、ちょっとピンクっぽいし、なにより堂上が変態!?と思いまして^^;
           こんなのupしたらここに来て下さっている皆様にどん引かれてしまうかなーと;;
           堂上はこんな変態ちっくじゃない!と思われた方、ほんとにすみませんorz
           ゴミ箱っていうコンテンツを作っていっそそこにぶち込もうか!?とか一生サイトにはupしない方向でいこうかとか考えておりました(笑)
            おっさんたちはね、堂上いじめが楽しくて仕方ないんだよ!wもちろん私もな!w(オイコラ
           オンリ明けそうそうこんなSSで本当申し訳ありませんorz
           もしこのネタを気に入って下さった方がいたらぜひ拍手で教えてくださいw(笑)パチパチしてくだされば、あ、同士さんがいると管理人が大変喜びますw(ヤメロ

           2009.03.19再録