カミツレ図書館



     オン アイス





「きょ、教官…っ!手、離さないでくださいね…!」
「ああ、大丈夫だから足動かしてみろ」
 郁は堂上に両手を引かれながら頼りなく滑る足下を見た。向かい合うようにして滑りながら堂上は郁を誘導するようにゆっくりとゆっくりと前方に進んでいく。
「しっかしお前、運動神経は悪くないのにこういう繊細なスポーツは苦手だよなぁ」
「だだだ、だって…!って、っきゃー!転ぶ転ぶ!すべるー!そんな早く進まないでー!」
 少しスピードを速めた堂上についていけなくなる。
 進もうとしてはいるが思うように足が動かずに郁はつるつると無意味に足を動かすと転びそうになり手を引いてくれていた堂上に思わずしがみついた。
「っ!すいません!」
 言って郁が堂上から飛び退くように離れると滑って勢いよく後ろに尻餅をついた。
「ぎゃ!」
 その着地点の固さとじわりと感じた冷たさに思わず悲鳴が漏れる。堂上は笑いながら郁が座り込んでいるところまで滑ってこちらに手を差し伸べてきた。
「なにやってんだ、アホゥ」
「すすす、すみません」
 羞恥で頬を染めながら堂上の差し出してくれた手をとるとぐいっと引っ張られた。
「そういやお前、この間のボーリングも慣れるまでは散散だったよな」
「だって…!ボーリングって上手くコントロールできないし!ああいう頭を使うようなスポーツは苦手なんですぅ!教官はストライクばっか出してましたよね」
 郁がいじけたようにそう言うと堂上は笑った。
「あんなもん、こつさえ掴めりゃなんとでもなるだろ」
「うー…」
 それでも最後のほうでさえピンに当てるのが精一杯だった郁は結局一度もストライクを出すことがなかったのだ。
「ほら、あっち行ってみるか?お前、今はとりあえず足を動かすなよ」
 郁はこくりと頷くと堂上に身を任せた。
 昔はよく家族でスキーに行ったもので郁はスキーならば大得意であった。それがスケートならばどうだろう。氷の上を滑る優雅なスポーツでスキーみたいに滑るスポーツだし、他の人が簡単に滑っているのを見てこんなに大変なものだとは思いもしなかった。
 どこに行きたいかと問われたときにスケートに行きたいと言った自分を自己嫌悪する。せっかくスケート場まで来て、いざ滑ろうというのに、堂上だってこれでは楽しめないに違いない。
 この人、なんで苦手なスポーツないんだろ…。
 郁が自分の手を引く堂上をちらと見ると目が合った。向かい合う形になっているので今まで目が合わなかったのは郁が余所見をしながら考え事をしていたからだろう。
 向かい合いながら滑るというのも滑りにくいだろうに。最初は向かい合わずに滑っていたのだがそうすると郁がすぐに転ぶのでこの措置になった。堂上がこのほうが安心だと言った。
 でもたぶん、本当はあたしのためでもきっとある。郁を置いて堂上がどこかに行ってしまうことはありえないだろうが、それでも郁が不安にならないようにと考えるのが堂上だ。堂上の顔が見えるこの滑り方は実際郁も安心できた。
「ん?どうした?」
 目が合ったままでいると堂上は郁を気遣うように問いかけてきた。
「いえ、すみません。堂上教官、これじゃ全然楽しめないですよね…」
 郁はしゅんと俯いた。
「何言ってんだ。俺はお前とこうして滑りに来られて嬉しいぞ。まさかお前とスケートに来られるなんて思いもしなかったしな」
 相変わらず、この人あたしの喜ぶフォローが上手いよなぁ。
「それに、お前にしがみつかれるのも悪くないしな」
 その言葉には顔を赤くすると堂上は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「堂上教官、仕事では容赦ないのにスケートとかボーリング教えてくれるときは優しいですよね」
 別に仕事も優しく教えて欲しいとか厳しすぎてついていけないとかそういうわけではないが、ここまで差があるのは少し納得がいかない。
 郁が唇を尖らせると堂上が呆れたようにお前なぁと呟いた。
「ボーリングやらスケートやらはプライベートで仕事とは違うんだから当たり前だろうが」
 いや、まぁそうなんだけど。郁が胸中で自分を納得させようとしていると
「それにな、お前限定だろ」
 堂上はそう言うと郁から顔をそらした。
 あたし限定…? 「お前じゃなかったらここまで根気強く教えないだろうな」
 それは…
「お前は最後まで諦めないし努力もする。真っ正面からぶつかってくるタイプだからこっちも突き放せないだろう。それが好きな女ならなおさらな。まぁ最初からお前限定で突き放すつもりもないけどな。」
 俺もお前と一緒に滑りたいしな。堂上は最後にそう付け足した。思わず舞い上がってしまいそうな言葉の数々に頬が緩む。そんな嬉しいことばっかり。
 照れ隠しか速められたスピードに乗じて郁は小さく好きと口を動かした。たぶん堂上に声は届いていない。
 届かせるつもりもなく呟いた言葉だったのにいつのまにやらこちらに向き直っていた堂上から「こういうとこで可愛いこと言うな、バカ」と返され郁は自分で言ったにも拘わらず真っ赤になって俯いた。










fin.








           えー、またしてもいろいろ捏造設定多くてすみません^^;
           でも郁ちゃんは頭を使うスポーツは苦手なんじゃないかなーと。
           ひたすら走る、短距離みたいなやつとか単純なルールの陸上関係は強いけれど、みたいなw
           運動神経はいいのにね!wどじょはきっとなんでもできるんだろうな…v
           でも何か一つ苦手なものが実はある、とかだったら萌え!ですね!v
           (お前はそんなんばっかがスキだな、おい^^;)
 
           2009.03.02