カミツレ図書館



     騒がしい誕生日





「なんですか?このお祭り騒ぎは…」
 事務室に入って郁の目に飛び込んできたのは鮮やかな色とりどりの紙テープだった。
 一体今日はなんの日かと言うほどに派手に飾りつけられた室内を見渡して、郁はその装飾のあまりの凄さに唖然とした。ここまで手のこんだ装飾はそうそう見られるものではない。事務室内は例年催される業務部主催のクリスマスイベントくらいの盛り上がりをみせていた。
 今年もクリスマスイベントは大盛況だったが、クリスマスもすぎて何をこんなにも派手に祭り上げるイベントがあったであろうか。郁は内心首を傾げた。確かにもう少しで今年も終わりを迎え、大晦日が盛り上がるであろうことは世間的に考えてみてもまぁ納得のいくところだが、まだ12月が終わりと言うわけではない。そして12月の終わりというものは常にやってくるもので、今まで特殊部隊のメンバーたちがそれをこんな風に祝っているところは見たことがなかった。
 まぁ、忘年会やらなんやらで毎年特殊部隊のメンバーたちが羽目を外すといったことは郁が忘れることがないくらい強烈に印象強く残っているが。
 郁が唖然と呟いた一言には誰も答える様子がなく、隊員たちはせっせとその作業に追われていた。よく見てみると手塚まで手伝っているではないか。小牧はなにやらダンボールを運んでいる。
 郁はとりあえず、上官である小牧に事のあらましを尋ねに歩み寄った。
「あの、小牧教官。これは一体何の騒ぎですか?」
 郁が声をかけ目が合うなり小牧は苦笑した。
「ああ、笠原さんは昨日ちょうど説明している時いなかったよね」
 説明?一体何のことだ?怪訝になった郁を察したのか小牧が説明しようとしたところで事務室のドアが開く音によってざわめいていた室内が静まり返った。思わず郁も振り返ると、今しがた出勤してきたばかりらしい堂上と目が合った。
 郁が挨拶しかけた刹那、郁の頭上に目を走らせた堂上がぎょっとした。つられて郁が堂上の視線の先を追うと先ほどはなかった横断幕が今まさに高々と掲げられているところであった。そこには力強くも豪快な字で「堂上くん、三十路突入おめでとう!」と書かれている。
 郁がそれを心の中で読み終わらないうちに後ろからいつも郁に向けられている怒声が事務室内に響き渡った。
「なんですか!これは!」
 その怒声に怯むことなく周りの隊員たちに指示を出していた玄田が図太い声を上げた。
「おう、堂上!出勤時間が違うだろうが。まだ用意し終わっとらんぞ」
「何の用意ですか!こんな下らないことするためにあんたらは集まったんですか!さっさと綺麗に片付けてください!」
「せっかくお前のためにここまで用意したんだ。ケーキも用意してるぞ。おい!緒形持ってこい」
 玄田の指示に緒形はさも当たり前であるかのようにどこから取り出したのかいちごののったホールのショートケーキを堂上の机の上に置いた。
 玄田のにやにやとした笑みは余計に堂上の機嫌を損ねるだけだ。
 通常名前や祝いの言葉の類を書くであろう、ケーキの中心に飾られているチョコレートのプレートには「三十路の堂上くんへ」と書かれている。それが無難に祝いの言葉にとどめられていさえすれば横断幕もまだ許せたのかもしれないが。それをせずにいちいち堂上の機嫌を逆撫でしてくるのが隊の核である玄田の上手いところだ。こんな言葉を書いてくれと依頼されたパティシエも恐らく恥ずかしかったのではなかろうか。
 三十路と言う言葉を頭の中で反芻していた郁はようやく合点のいったようにあっと小さく声を漏らした。
 今日って堂上教官の誕生日!?うっそ、全然知らなかった!
 好きな人の誕生日を知らなかったことに愕然としながらも目の前で繰り広げられる珍妙な誕生日祝いのやりとりに郁は思わず吹き出した。
 小牧はすでに目の前で悶絶し苦しんでおり、手塚はいたたまれないように堂上から目を伏せている。
 誕生日祝いをここまで面白おかしくできるのは玄田率いる特殊部隊くらいであると言っても恐らく過言ではないだろう。
 吹き出した声が聞こえたのか堂上がこちらを睨んできた。
「お前は何を笑ってんだ!」
 微妙に怒りの矛先を郁へと変えてくる。
「なんだ、祝ってやってんのに嬉しくないのか」
 玄田が悪びれもせずそう言うと「三十路は激しく余計ですが、お心遣いいただき大変恐縮です!」
 堂上はもはややけになって綺麗に90度でお辞儀してみせた。そのまま頭を下げたままの堂上に玄田が実に愉快そうに高笑いした。






fin.








           てことで!堂上、誕生日おめでとう!(正確な日付は分からないけど^^;
           甘さが全然ないものですみません^^;
           堂郁カップル成立のとき盛大だったようにこれも盛大にやってたら面白いなーとw(笑
           今年は堂上が三十路突入だからな!とか言って隊長は今回に限ってはりきって堂上を盛大に祝(からか)ったりw
           時期的には危機〜革命の間の12月ですね!郁が堂上の誕生日を知らないver.で書いてみましたw
           もう4年目なので知ってる可能性のほうが高いですが、なんとなく知らない設定w好きな人の誕生日を知らないで慌てる郁ちゃんvv(コラ
   
           2008.12.28