カミツレ図書館


     思いを馳せて




「堂上、お前も行くだろ?」
「は?」
「合コンだよ、合コン!」
 こうして男ばかりだとそういう話が出ることはしょっちゅうで。ましてや出会いの機会が少ない職場に勤めていれば自然の道理だ。
 上官でさえ、部下のためにそのような機会をセッティングしてくれる。
 数年前はあの堅物そうで真面目な緒形も参加していたというのだから驚きだ。もっともほぼ幹事としてで、頭数には入っていない場合や強制的に参加させられる、といった場合が多かったらしいが。
「で、行くだろ?」
「いや、俺は…」
 断ろうとした刹那
「お前、こういうの付き合い悪いじゃんかよ。たまにはいーだろ!どうせ彼女いないんだし。今回は小牧も来るんだから、お前も来いよ!」
 小牧がか!?
 堂上はその勢いに押されているうちに断わるタイミングを逃した。

「お前、なんで参加してんだ?」
 半ば強引に連れてこられた呑み屋の席で堂上は隣に座る小牧に小声で尋ねた。
「んーほぼ強制的に参加させられたって言ったほうが正しいかな。ま、たまには付き合ってあげようかと思って」
 堂上は居心地が悪いように身動ぎしつつその言葉を聞いた。
 向かいの席で自己紹介をしている華やかな女性たちの中でショートカットの女性に目がいってしまうのは恐らく気のせいだ。
 一通り自己紹介が終わり、陣取った端の席で堂上は話に加わる気にもならず、酒を呷っていた。
 現在フリーの小牧はもてるのにも関わらず最近は彼女を作る気配がない。今だって要領の良い小牧は話に加わりさえするが、どうやら今回、堂上や小牧と同じように出席している同僚たちの目的はどうでも良いようだった。もっとも今は小牧が妹のように可愛がっている毬江という存在も気にかかってはいるのだろうが。小牧くらい要領が良ければその気になればいつでも彼女くらいできるのだろう。
「堂上さん?」
 声をかけられて堂上は顔を上げた。目の前にショートカットの女性がいる。自己紹介の談で堂上がちらりと目を遣った女性だった。
 見合わせたその顔にもう三年も前に出会った少女の顔を重ね合わせていたのはほとんど無意識だった。その女性の瞳にあの力強い眼差しを思い出して、もう会えるわけもないのにあの瞳をもう一度見たいとそんなことを思ってしまった。会えないと思うと募る気持ちはどうしようもない。
「お酒お好きなんですか?」
 そこまで考えて、堂上は我に返った。
「ああ」
 答えるとその女性は興味深そうに堂上が口にしているビールを見つめた。
 堂上は内心で自分を嘲笑した。何を血迷ったことを考えているのか、俺は。
 自分の説明しようのない感情に苦りながら一口酒を呷った。
「あの、違ったらすみません。もしかして誰か探してました?」
「は?」
「あ、いえ、なんか誰かを探しているように見えたので…」
 深沢なんと言ったであろうか、この女性は。記憶力は良い方でだいたい一度聞いたら覚えていることが多い堂上だが、このときばかりは何故か名前が出てこなかった。それほどあの少女のことに気をとられていたことに気が付く。
 自分のしていたことは他人の目にそのように映っていたことに気が付いて自分でも驚いた。
 探してる、か。
「いや、別に…」
 曖昧に答えてその女性に指摘された通り確かに自分がここにいるはずのない少女の影を追っていたことに気が付いて苦笑した。

「おい、堂上!ミキちゃんといい感じだっただろ〜。なんでお誘い断わっちゃったんだよ!」
 二次会にさしかかり、抜けると言った堂上に同期の一人が小声で耳元に囁いてきた。
 二次会前になんとなくメンバーが固まり始めている中で堂上はあのショートカットの女性に一緒に抜けないか、と提案されたのだ。それを堂上は即答で断わった。その様子を同期の一人は見ていたらしい。
「俺も抜けるよ」
 そこで小牧の発言に周囲の女性たちがどよめきの声を上げた。
「なんだよー、お前もかよ」
 ブーブーと文句を言う同期たちを小牧は簡単にいなしながら堂上の隣に並んだ。二次会の一行たちと別れると小牧は笑みを浮かべた。
「あれはもったいないことしたねぇ。もう二度と堂上に抜けようなんて言ってくれる女の子、現れないかもよ?」
「ほっとけ!」
 からかい口調のその言葉に堂上が余計なお世話だとばかりに声を上げると小牧は真摯な眼差しで次の言葉を発した。
「気になってるんだろ」
 誰がだ。心中で呟いたが小牧が言ったことに当てはまる人物が堂上の中でたった一人を絞りだして堂上は苦笑した。
「呑み屋行く途中、あんた女子高生ばっか見てたよ。自分で気付いてる?同期の連中、堂上はロリコンだって囁いてたよ」
「ばっ、誰がだ!!」
 堂上が小牧の胸倉を掴むが当の本人は涼しい顔をしている。
「いや〜、一目ボレってあるんだねぇ」
 瞬間小牧の胸倉を掴んでいた堂上の手が緩んだ。小牧はその隙を逃さずにその手から逃れる。
「勝手に言ってろ」
 堂上は吐き捨てるようにそう言って先立って小牧の前を歩き出した。
「また会えるといいね」
 そう声をかけてきた小牧の声に一瞬無意識に頷きかけて、堂上は無理矢理その声が聞こえていないフリをした。







 fin.









           きっと図書隊でも合コンの話はたくさんあったんだろうなーと思いまして。
           で、郁ちゃんが図書隊に入る前は堂上も誘われたりしていたんじゃないかなとw
           堂上&小牧の何気ないやりとりも私は大好きなんですよーw
           時期的には堂上小牧が26歳くらいかなぁ…。にしても、相変わらず堂郁以外のCPを認めない頑固者ですみません;;
           郁ちゃんに出会ってからのどじょさんが郁ちゃんを忘れるために誰かと付き合ったのか、それとも逆に誰とも付き合わなくなったのか…それは分からないですが。
           んー私的にはどっちが嬉しいんだろう…。でもまぁ26歳あたりは誰とも付き合っていない!と願望(?)を込めて!w
           いろいろ捏造しててすみません><;

           2008.12.06