カミツレ図書館

     call me anytime



「あの、教官」
 いつものように朝早くから出勤している堂上は机に座って書類の整理をしているようだった。この時間はまだ堂上しか来ていないだろうということは知っている。つまり、今は堂上と二人きりだ。
 郁は堂上の机の横に立つと遠慮がちに声をかけた。
「おう、おはよう」
「おはようございます…」
 やっぱり言わないほうがいいかも。でもでも言ってみようかな。柴崎に言ったら喜ぶって言われたし…。
 郁は昨日の夜の出来事を思い出した。昨日は堂上から電話を受ける予定でいたので携帯を肌身離さず持ち歩いていたのだが、結局堂上から電話はかかってこなかった。こちらから電話してみようかとも考えたのだが迷惑かもしれないと思うとどうしても電話することができなかった。
 柴崎に言ってみたところ、迷惑なわけないでしょ〜と言われた。あの柴崎がそうに言うのだから間違えないとは思う。それでも念願叶って初めて付き合いだした郁としては迷惑かも、と思うと考えがどつぼにはまっていき、そんな些細なことも気になってしまう。
「なら今日、そのこと言ってみなさい。そんなことで迷惑なんて思う男いないから。それに、あの堂上教官よ?」
 柴崎にそう言われ気持ちは多少持ち直した。そして珍しく早起きした郁は、勇気を持って堂上に声をかけた。
 …までは良かったのだが。どうにもその先の言葉が出てこない。どうしよう。なんて切り出そう…。
 ええい!考えててもしょうがない、善は急げ、当たって砕けろだ!
 この場に相応しいとも思えない慣用句を心の中で叫ぶと郁は唐突に切り出した。
「あの、教官。昨日電話待ってたんです…よ?」
 微妙に堂上の様子を窺うような口調になってしまったのはやはり少しの躊躇もあったからだ。
「ああ、悪かった…。昨日は残業が長引いちまってな。終わったのが深夜0時を回ってたから電話かけるのやめたんだ。すまん」
「そう…だったんですか。いえ、いいんです」
 郁はそう答えると俯いた。俯いても堂上のほうが低い位置にいるので郁の赤くなった顔は丸わかりなのだが。
「郁?」
 始業時間になっていないからか、堂上は郁を下の名前で呼んだ。
「深夜でも教官からの電話なら嬉しいです…」
 呟くように言う郁の言葉に堂上は目眩を起こしそうになった。そんな堂上の心情などつゆ知らず。次に郁が続けようとしている言葉が堂上にとっていったいどれほどの破壊力を持っているのか、郁自身はまったく分かっていない。
「一日の終わりに教官の声聞けるのが嬉しいです…。夢でも会えそうな気がしてきません?」
 郁が顔を上げて微笑むと堂上は無言で机に突っ伏した。
「きょ、教官?」
 堂上のその行動の意味が理解できなくて焦って郁が声を上げると不意に堂上は立ち上がった。郁の頭に手をのせると耳元に口を寄せる。
「仕事前にそういうこと言うな、お前。手に付かなくなる。可愛すぎ」
 囁かれたその言葉に真っ赤になると堂上はさらに言葉を続けた。
「今日はメールする」
 堂上はそう言うと再び自分の席に着き続きの書類を片付け始めた。
 郁は囁かれた言葉を心の中で反芻しながら自分の席に着いた。
 電話じゃなくて、メール?メールってことは…。メールは…。
 直接会うんだ…。会えるんだ…。
 ああ、だめだ。自然とにやけてくる顔はどうにもならない。
 だめだめ、しっかりしなさい、笠原郁!これから仕事なんだから!
 郁はふるふると首を振ると課業後に過ごす堂上との時間を想像して笑みを浮かべた。







 fin.









           あま〜いのが食べたくなったので(ェ
           実は実話(しゃれ?(苦笑)
           いや、堂郁ver.とは全然違いますけど!
           これって堂郁変換したら萌えるんじゃ…そう思ったら顔がにやけて危ない人になりました(あ、いつものことか;;
           日常で堂郁変換したり堂郁のことばっかり考えている私はほんと、末期ですね…^^;

           2008.11.28