カミツレ図書館

     【続】長期ウォッチ物件〜堂郁悶々編〜



「またここにいたのか」
 上から降ってくる聞きなれた人物の声に郁は顔を上げなかった。
 “また”と言われて初めて気が付く。小牧が良化隊に連行された日、堂上の手を振り切って郁が泣き声を押し殺した場所が今まさにこの場所であったということに。
 あたし、何でこんなに悲しくなってるの。何で傷付いてるんだろ。あたしに女を感じないとはっきり言われたこともあるのに。
 あたしがお見合いしたって、あたしがこの仕事をやめたってこの人は困らないんだ。
 そんな今更なことを思って郁は胸がズキリと痛むような感覚を覚えた。今、この人がそばにいるのは苦しい。
 堂上が郁の隣に腰を下ろす気配がした。
「悪かった」
 一言謝られる。それが何に対しての謝罪であるのかは聞かなくても分かる。
 別に気にしてないです、その一言がなぜか出てこなかった。そう言えば元に戻れるのに。だが郁のその思いとは裏腹にその言葉は郁の口から出てこなかった。その精神的ダメージの大きさに郁自身が一番驚いていた。
 お互いになんとなく声をかけられず、しばらく沈黙が続く。
「見合いするのか?お前」
 その沈黙を破ったのは堂上のほうだった。唐突に言われた言葉に郁は一瞬戸惑った。どう答えたものか迷っているうちに隣にいた堂上が郁の頭をぽんと叩き、苦笑しながら立ち上がった。
「いや、なんでもない。いい、気にするな。悪かったな。落ち着いたら戻ってこい」
 なぜ堂上がそのようなことを言ったのか、意図は掴みかねるが…。
 郁は離れていく堂上の背中に無意識に立ち上がり追い縋っていた。

「見合いするのか?お前」
 ぽろっと出た言葉に堂上ははっとした。
 何を言っているんだ、俺は。
 さっきの失言は自分が悪いと分かっているのだから謝るのは当然だ。だが今の発言は違う。この場面で俺は何をプライベートなことを聞いているんだ。そんなことはただの上官である俺が聞くようなことじゃない。そんなことは郁の問題なのだ。
 堂上は自分の発言に思わず苦笑いを浮かべた。もうすぐ昼休みも終わりだ。
 堂上は立ち上がると栗色の頭にぽんと手を置いた。
「いや、なんでもない。いい、気にするな。悪かったな。落ち着いたら戻ってこい」
 逃げるように声をかけ、名残り惜しくもその頭から手を離す。郁に背を向けると後ろの気配が動いたような気がした。

「しないです!」
 声を上げると堂上は立ち止まった。
「言ったじゃないですか。あたしは堂上教官を超えるんです!だから…」
 立ち止まったまま動かない堂上に駆け寄って、あのとき――稲嶺の護衛として付き添い、任務遂行後に宣言したことをもう一度高らかに宣言する。
 不意に堂上がくるりと振り返った。そのまま両手が伸びてきて郁の次の言葉は遮られた。
 堂上の両手は郁の頭をそれ以上言うなと言うようにめちゃくちゃにかき混ぜた。その手を捕まえようともがいてみたが郁のその気配にすら戸惑う様子はなく、堂上の手が止まることはなかった。仕方なくされるがままになる。お陰で髪はぐしゃぐしゃだ。しばらくぐしゃぐしゃに撫でる、というよりもかき混ぜていた手を止めて堂上は前に向き直ると歩き出した。
 何するんですか!という抗議の言葉は向き直る前の堂上がほっとしたように微笑んだ気がして出てこなかった。
「鏡見たほうがいいぞ、お前」
 堂上は立ち止まることなく、こちらに振り向きもせずに言い放つと、背筋をしゃんと伸ばして郁の先を歩いて行った。郁ははっと我に返ったように頭に手をやり、てぐしで髪を整える。
「誰のせいだと思ってるんですか…」
 堂上の背を追いかけながら呟いた抗議の一声は、落ちこんでいたはずなのにいつの間にか自分の気持ちが浮上していることに気が付いて、思ったよりも覇気の足りないものとなった。






 fin.









           一応「長期ウォッチ物件」の続きです^^;
           戦争・内乱時期の必死で気持ちに蓋をしているどじょは私が未熟なあまり上手に書けません(泣)戦争・内乱SS難しいよ!いや、甘甘も難しいけど!
           すみません;;「堂郁悶々編」とか書いてるのにその悶々の部分が少なくて申し訳ないです><;それは私が未熟なためです;;
           悶々編とかダサくてすみません(土下座)続きを少しでも気にかけてくださった皆様ありがとうございます!
           内乱時期ならこんな感じかな〜と原作イメージを大切に書いてみたのですが…(いや!いつでも原作イメージで書こうとしてますが!><
           こんなんでもいいですか?(汗)内乱時期のどじょさんを書くのは難しいです^^;い、イメージ壊してないですか?私><;(今更;;

           2008.11.21