カミツレ図書館

     長期ウォッチ物件【後編】



「あ、ご一緒してもいいですかぁ?」
 柴崎は目敏く堂上と小牧を見つけると二人の横を確保した。昼時の食堂は込んでいるので要領よく利用するのが鉄則だ。
 隊員達はわざわざ上官の隣に座るような勇気はないのだろう。堂上と小牧の周りだけ人がまばらだ。柴崎は堂上の横に座り、郁はあとから来て柴崎の様子に辟易ぎみに小牧の隣に座った。
 さて、あとはどのタイミングで持ち出すか、ね。
 柴崎は昨日仕入れたばかりのネタに隣の人物がいったいどんな反応を見せてくれるのか考えて笑みを押し殺した。
「なんだ、その不景気面は」
 堂上がそう言ったのは明らかに小牧の横に座っている郁のことを指している。柴崎は今がタイミングとばかりに、昨日の夜話題に上がった例のネタを持ち出すことにした。
「笠原が両親からお見合い写真送られてきたんですよー!」
 そこで郁が飲んでいたお茶に咽せた。柴崎は直ぐさま隣の様子を窺う。観察する相手が隣にいると細かい様子がよく分かる。
 堂上は一瞬眉間に皺を寄せた。郁はお茶に咽せて咳き込み堂上の様子を窺うほどの余裕はないようだ。その一瞬の表情は柴崎と郁の隣に座っている人物だけが恐らく分かったに違いない。
「ちょっと、柴崎ぃ!」
 やっと落ち着きを取り戻した郁は声を上げると柴崎を睨み付けた。
「お前相手に見合いしてくれるやつがいるなんてな。親切なボランティアだな」
 堂上はそう言うと平然と自分のお茶を口に運んだ。
 また心にもないことを…。柴崎は心中で呟くと郁の様子を窺った。
「ちょっと!ボランティアってなんですか!ボランティアって!あたしがお見合いしたらおかしいんですか!」
 柴崎はその言葉を投げかけられた人物を窺う。あー、これは後悔してるわねぇ。どうしてこうもこの人は頑ななのかしら。
 柴崎がそのように思っていることなど郁はもちろん堂上もつゆ知らず。恐らく小牧だけが柴崎と同じ感想を抱いているであろう。
 呑気に人間観察を柴崎が行っているとその後の郁の行動は予想外だった。
 郁はだんと堂上の足を踏みつけると
「失礼します!」
 嫌みったらしく笑みを浮かべ立ち去っていく。
「っ!おま、足を」
 上官の足を踏みつけるなど言語道断。そんなことができるのは恐らく郁ぐらいだ。
「今のは堂上が悪いよ」
 小牧の穏やかな非難に堂上は苦った顔をした。
 まったく、この人の頑なさはどうにかしたいのよねぇ。こっちもまだまだ長期ウォッチ物件だから手を出したくないんだけど。お互いがお互いに気持ちが向いてるのが丸わかりだからついつい手を出したくなっちゃうのよねぇ。
 このあとのフォローが見物なとこだけど、それは甘んじて観察しないでおくか。
「じゃあ、あたしも失礼しますねー。堂上教官のせいで傷ついた繊細な乙女心をあたしが宥めておきますのでー」
 柴崎がそう言って立ち上がると堂上はばつが悪そうに顔を背けた。





 fin.









           一応完結です!
           にしても終わりが何もひねりのないものですみません;;
           管理人が個人的に書いて楽しんでて申し訳ないです(汗
           いつも甘甘目指している私は戦争とか内乱時期のSSってあまり書かないので私的には楽しかったですw
           この時期の堂上さんは難しいですね。
           本当はこのときの悶々とする堂上の心情の方が書いてみたいとこですが…v

           2008.11.16