カミツレ図書館

     可愛い反撃



 郁と二人でライブに来ていた。
 今までライブになど来たことのなかった堂上は人の多さに驚くばかりだ。
 なにやら人気のあるアーティストらしいが堂上にはさっぱり分からない。
 行こうと言い出したのはもちろん郁で。余ったチケットを買って欲しいと業務部の同期に頼まれたらしい。郁はどうやら断わりきれなかったようで仕方なく買ったと言っていた。
 俺に気を遣って柴崎と行くつもりでいたようだが郁の頼みならば別に行くのは悪くない。そんな風に言ったら小牧に二人で出かけたかったんだろ?と言われるのが落ちであろうが。確かにそれは本当のことだが面と向かって自分の代弁をされるのは堪らない。
 本音をぐっと飲み込んで「いいぞ」と返事を返すと郁が花のように顔を綻ばせた。
 この顔を見られるなら何でもしてやりたいと思ってしまうのだから苦笑するしかない。

 会場に入って二人して席を確認すると座り込んだ。映画館みたいだなと周りを見渡す。映画館と違うのは前にある舞台くらいだ。
 余ったチケットを買い受けただけなので席も舞台からはかなり距離がある。
 始まる時間間近になったところで会場内が暗闇に包まれ、黄色い声援やらけたたましいほどの声とともにライブは始まった。

 最初はテンポの良い曲でほどよく会場を沸かせ、やがて曲は静かなテンポの曲に移った。バラードであろうか。このあたりの要領の良さはさすがプロといったところだ。少し前まで手を叩いていたファン達も大人しくなる。
 周りにつられて立ち上がった姿勢で堂上と郁も明るくなっている舞台に集中していた。ふと横にいる郁を見るとさっきまで元気にはしゃいでいたはずの郁がいつのまにか泣いていることに気がついて堂上はぎょっとした。
 とりあえず努めて優しい声で問いかける。
「何泣いてんだ」
「え?あれ?」
 郁は自分が泣いていることにたった今気が付いたようで自分自身驚いているようだった。今までの過程を思い返してみても泣くような原因が思い至らない。
 堂上は郁の頭に手をやるとこちらにぐいっと引き寄せた。自分の肩に郁の顔を押し付ける。
「や、なんかじーんときちゃって。涙が勝手に」
 堂上は黙って郁の話を聞くと郁の頭をぽんぽんとリズムよく軽く叩いた。
「お前は…驚くだろうが」
「ていうか、教官、ここ会場。隣、人いますって!」
 まるで抱きしめられているかのような状況に気がついて郁はあわてて堂上から離れようとした。その郁を逃がさないとばかりに
「こんだけ暗けりゃ分からんだろ。それに誰もこっちなんか見てない」
 堂上はそう言うと郁の体を離す前にぎゅっと一瞬抱き締めた。  瞬時に熱の上がった郁を見て微笑む。そうして郁の手をとると指を絡めた。
 内心、業務部の連中が離れていて良かったと思った。こんなところを見られたら次の日になんと言われるか分かったものじゃない。それでもこんなことをしてしまったのは郁が泣いていたのが悪いと勝手に責任転嫁する。笑っているのはいいが泣かれるのは困る。まぁ泣き顔も可愛いが。
 この初心の恋人が可愛くて仕方ない。職場で押さえている分プライベートでは自制が効かない。それはきっと郁のせいでもあると思う。
 堂上の気がふとそれかけたとき絡めた郁の指先に少し力が入った。
 その瞬間堂上の頬に郁の柔らかな髪が触れシャンプーらしき甘い香りがふわりと漂った。頬に柔らかな感触がしたかと思ったらすぐに離れる。
 それが郁の唇であったと気付くのに堂上は少し時間がかかった。
 いつもの彼女なら照れていくら暗闇だろうとましてや人のいる中でこんな大胆なことはしてこない。だから今のほんの数秒の出来事を理解するのに珍しく頭が追い付いてこなかった。
 隣を見ると暗闇でも分かるほど赤くなった郁の顔がそこにあった。羞恥でか目を合わせようとしなかった郁がおずおずとこちらの様子を窺ってくる。
 すると郁は真っ赤な顔をしたまましたり顔をしてみせた。
 どうやらよほど俺は間抜けな顔をしていたようだ。
 郁はそのあとにこりと微笑んで前に向き直った。
 ああ。やられた。ふいうちに赤くなった耳を少し庇うようにしてそっぽを向き仏頂面を作る。
 お前はほんとに…。
 こんなとこで…歯止めが効かなくなるだろうが。
 今すぐに抱き締めてめちゃめちゃにしてやりたい衝動をぐっと堪え堂上はせめてもの意趣返しに郁の腰に腕を回し抱き寄せた。





 fin.









           んー?あれ?なんか微妙ですね;;
           すごく上手に書きたいとは言わないから、せめてもう少し上手に書けたらいいんですけど…^^;
           なんか微妙すぎるくらい読みづらいSSですみません;;
           ちょっと失敗だったかな…(汗
           すみません、精進したいです…><;

           2008.11.04