あっ上手い。それが正直な感想だった。ジュースを飲みながら聞き入る。堂上教官の歌い方結構好きかも。乙女モードに入りそうになるスイッチを慌てて押さえる。
歌い終わった堂上がふぅと一息吐いた。
「堂上教官、上手いですねー」
郁が感心したような声を上げると
「お前ほどじゃないがな」
堂上は苦笑してマイクをテーブルの上に置いた。
その声色に多少からかいが入っていたような気がして郁はさらに付け足した。
「て、ほんとに上手でしたよ!」
思わず堂上のほうへ身を乗り出し拳を作っている自分に気が付いて郁ははっと我に返った。
堂上は驚いたような顔をしている。
ちょっと待った!なんであたしこんな力説してんだ!
焦って弁解の言葉を探すが頭が回らず巧い言葉が出てこない。すると体勢を維持し固まったままの郁に「そりゃどうも」堂上はそっけなく返した。
「お取り込み中すいませーん」
柴崎のその言葉でフリーズしていた郁はやっと解凍された。
「はい、次は笠原の番ねー。曲はもう入れてあるから」
柴崎はにっこり笑って郁にマイクを手渡した。普通ならば自分の番になる前に曲の予約をしておくのだが、柴崎がなにやら弄っていたので郁は曲を予約できずにいた。
何を入れたんだ?と怪訝になりながらも郁はマイクを受け取った。
そして流れ出した曲のイントロにぎょっとする。
「ちょっと待って!これ、ぶりぶりのアイドルの曲じゃん!柴崎、私にこんなの歌わせるつもり!?」
「い〜じゃない。あんたどんな歌うたっても上手いし」
「こんな恥ずかしい歌歌えるか!!」
キャラじゃない!こういう歌は絶対私のキャラじゃない!郁は柴崎の言葉に突っかかった。
「じゃあ笠原0点ねー」
「なっ!?」
「ほらほら始まるわよー」
なんで決定権が柴崎にある!郁はしぶしぶ歌い出した。
くっそー柴崎のやつ。せめて最初くらいまともな普通の歌から歌わせろ!内心毒づきながら郁は柴崎に睨みをきかせた。
柴崎は郁のその様子を気にもとめない様子でジュースを飲んでいる。
ええーい!どうにでもなれ!郁はなかば
「私、飲み物とってくるね」
郁は自分のコップを持って外に出た。
成り行きできたにしてはそれなりに盛り上がっているのでほっとした。なんだかんだ言いつつもみんな楽しんでいる。
ドリンクバーのところまで来ると立ち止まり郁はコップをすすいだ。カランカランと氷を勢いよく入れる。何にしようかな〜。
「なんだ、迷ってるのか?」
郁が悩み始めたところで後ろから声がかけられた。
「堂上教官も飲み物ですか?」
「ああ」
堂上も郁と並んで氷を入れ始めた。
「よし、決めた!」
郁はボタンの前をうろつかせていた指を一点に定めてスイッチを押した。黄金に近い色の液体が勢いよくコップに注がれる。
「結局何にしたんだ?」
「ジンジャーエールです!」
郁がそう言うと堂上の眉間に皺がよった。
「お前、それしょうがだろう?」
キョトンとした顔で郁は頷く。
「よくそんなもの飲めるな」
堂上が苦虫を噛みつぶしたような顔をする。
「あっ、それ差別ですよ!飲んでみればおいしいってことが分かります!」
郁は自分のコップをずいっと堂上の前につきだした。堂上は少し躊躇したが渋々郁からコップを受け取った。そのままストローを口に含む。
あっ。そのとき自分が今いったい何をやらかしたのか気がついた。
なにあたしナチュラルに間接キスすすめてんだ!?うわー恥ずかしい!
堂上教官は…?堂上の様子を窺ってみるが表情は読めない。
ん?対して動揺してないよね。ああ、そりゃあそうか。
そんな自分の考えに撃沈しそうになる。ああ、私なんか落ち込んでる?
そこで郁のその思考を堂上の一言が打ち消した。
「おっうまいな」
どうやら意外だったようだ。そうなのだ。郁もこれがしょうがと知ったときは随分驚いた。しょうがの味はそれほどしないし、スッキリとしていて飲みやすい。
先ほど考えていたことも忘れて郁は堂上に詰め寄った。
「でしょ!」
郁は嬉しそうに堂上からコップを受け取った。
「俺もジンジャーエールにしてみるか」
言って堂上も郁と同じようにボタンを押した。
堂上の言葉が嬉しくて思わず頬が緩む。先ほどの間接キスで悶々とした思いを帳消しにするほどの威力だ。
ここまできたら別々に戻るのも不自然なので郁は堂上と一緒に部屋に戻った。
ドアを開けるといつのまにか手塚が歌っている。小牧と柴崎が意味ありげににやにやと笑っていた。
「あ〜ら、仲がよろしいこと〜」
「飲み物までおそろいにしたんだ」
二人が連携プレーでからかってきた。
「「なっ!?」」
郁と堂上が固まる。
「これは…こいつが薦めるから」
「飲むものが同じになるなんて別によくあることでしょ!!」
二人して抗議するが、小牧と柴崎にはどう見ても言い訳しているようにしか聞こえない。
「まぁ座ったら?」
促されて郁と堂上はそれぞれの席にようやく座った。むすっとしてお互いにジンジャーエールを飲む。小牧がくすくすと笑っているのが分かった。
「95対90で柴崎チームの勝ちぃー!!」
その屈辱ともとるべき点数は画面にしっかりと映し出されている。郁と堂上はその点数を見るとがっくりと項垂れた。
5点差はないだろう!と郁は心の中で叫んだ。
柴崎は勢いよく立ち上がると小牧と手塚にそれぞれタッチして喜んでいる。
ふと柴崎が郁に目を向けた。この柴崎のいやらしい笑みは何かを企んでいるときのそれである。
うっと尻込みするが負けは負けだ。潔く腹をくくるしかない。
「で、罰ゲームは?」
「大丈夫よ、もうとっておきのもの考えてあるから」
その柴崎の恐ろしい笑みに郁と堂上は固まった。
to be continued…
つっこみどころ満載ですいません。><;
いろいろ想像で補給しつつ読んでいただけら、と思います。
そしてまたしても、郁ちゃんのジンジャーエール好き説捏造ですみません;;
ちなみに堂上の「お前ほどじゃない」という言葉はまだ郁ちゃんの歌は聞いていないときです。
分かりづらくて申し訳ないです。郁ちゃんの「上手いんですよ」発言から堂上が答えていると言うことで!^^;
激しく堂郁ですね;;手塚がかなりおまけになっててすいません!(ォィ
郁の歌に対する堂上が抱いた感想的なものも番外で書いてみたかったけれど、上手く書けそうにないので断念;;
みなさんのご想像にお任せすることにします;;
2008.09.16