「あのさ、あんまかわいいこと言うなよ、お前。今まで意地張ってたお前にそんな直球投げられるとこっちがまいる」
ひどく素直な麻子の言葉に光の耳がほんのりと赤くなった。最近の麻子はストレートな発言が多い。まぁ意図してやっているのも半分入っているとは思うが。
光は額に手をあてると最後に素の直球を付け加えた。
「そんなお前も好きだけど…。まぁ、意地はってたときも可愛かったけどな」
麻子から反応がないのでふと顔を上げると珍しく頬を朱に染めた麻子と目が合った。素で直球を投げた分自分のほうが恥ずかしいと思っていたが。思わずまじまじと麻子の顔を見つめた。
「なんだよ、お前。今更照れることなんてあるのか」
その類い希な麻子の反応が可愛かったので珍しく光がからかうようにつついてみた。麻子が責められることに弱いと知ったのはつい最近のことだ。
光が思っていたよりも麻子は動揺しているようで
「あのね、可愛いとか…」
と麻子の言葉が尻窄みする。まだ頬を染めたまま「あの子にのろけで聞かされてたけど…」麻子はそう呟いた。
あの子というのはもちろん郁のことであろう。それにそののろけというのは間違いなく堂上とのことである、というのは光にもなんなく予想される。
「なんだ?」
続きの言葉が気になって怪訝になる光に麻子も素で直球を投げていた。
「好きな人に言われる“かわいい”“好き”って効果絶大ね…。今まで言われたどんな言葉よりも嬉しくてすごく恥ずかしいわ」
麻子はふいと光から顔をそらした。結婚してからの麻子は今まで意固地になっていた反動か素直になる機会が増えた。きっと郁からの影響も強いのだろう。
新しく見るその麻子の素直さが意地になっていたころの麻子を長く見てきた分、光には可愛く見えて仕方ない。もっとも意地になっていた反動とは、自分も人のことを言えないが。
読んでいた本をパタリと閉じると「麻子」光は自分が座っているソファの隣を二度叩いた。意図に気づいた麻子は無言で歩いて来るとすとんと光の横に腰を下ろす。珍しく甘えるようにして光の肩にこてんと頭をもたれてきた。
こんなふうに可愛らしいところは今まで誰にも見せたことはなかっただろうに。自分の気持ちを認めるまで光にさえこんな様子は見せなかったのだ。
ああ、そうか。これは俺だけに見せてくれる素なんだよな。
何事もソツなくこなす麻子は自分の恋愛だけは不器用で。今までキレイが麻子のイメージとしてあっていたのに最近では可愛いのほうが光の中でしっくりきていた。そして結婚してからも以前と変わらず業務を華麗にこなす麻子の可愛らしい一面は自分だけが独り占めしているのだ。
「何にやにやしてるのよ」
面白くなさそうに自分を見上げてくる麻子に「ああ、幸せだからな」と答えるとその拗ねたように尖った唇に口づけた。
fin.
日記より再録です。日記と題名は違います。変えてすいません;;
日記では手塚と柴崎だったのですが、結婚した設定ということで光と麻子にしてみました。
んー、だめだ!やっぱり光と麻子だと私の中でしっくりこない…。直さないほうが良かったかな。。。
私にしては珍しい手柴です。別冊Uに感化されて思わず書いてしまったもの。
手柴はなかなか書けないのですが;;しかも甘い手柴って書けないんですよね(泣
甘い手柴、と感じてもらえたら嬉しいです。
2008.09.02再録