「へっぷち!」
うわっ。変なくしゃみになっちゃった。恥ずかしい。
隣に堂上がいるからとくしゃみをこらえようとしたのが悪かった。タイミングが合わずに我慢の効かなかったくしゃみは変な効果音になってしまった。
堂上と付き合う前、ましてや意識する前の自分であったら、くしゃみの声などこんなにも気にしなかったかもしれない。それを気にするようになったのはやはり好きな人の前では可愛くいたいという自分の乙女な思考のせいなのかもしれない。
…否、女の子なら誰しもそうだと思う。
「って教官!笑わないでください!」
隣を歩いていた堂上の肩が震えていることに気が付いて郁は声を上げた。原因は自分のくしゃみだと分かっているので郁は羞恥で顔を赤くした。
「いや、すまん」
「元はと言えば教官が悪いんですよ!教官が手を離してくれなかったからくしゃみが押さえられなかったんです!」
謝罪はきたがまだ笑うのをやめようとしない堂上に郁は不満の声を上げ唇を尖らせた。恐らくあの変な奇声になってしまった理由を堂上は気付いているのだろう。気付いていながら笑うなんてたちが悪い。
「くしゃみが出そうだから」と言って繋いでいた手を離そうとした郁の手を堂上は離そうとしなかった。デートのときデフォルトになっている恋人繋ぎというやつだ。
「もう!いつまで笑ってるんですか!」
郁が膨れっ面になったところでタイミング良く堂上の繋いでいないほうの手が郁の頭の上にのった。
「悪かった。お前があんまりかわいいから思わず、な」
この人はまた、甘い顔をしてそんなことを言う。郁は先程とは違った理由で顔が赤くなった。
「さっきどうして手、離してくれなかったんですか?」
反応に困って気になっていたことを聞いてみた。
「離したくなかったからだ」
堂上は前を見据えたまま仏頂面になると郁の手をぎゅっと握った。
それってあんまり理由になってないんだけど…。思いはしたが口にはしない。これは堂上が照れている時だと最近郁にも分かるようになってきた。
その答えが嬉しくて思わず笑みがこぼれる。私、教官のこういうところすごく好きだ。油断すると思いは溢れそうになる。「好きです」どんなに言っても足らない。この気持ちはどう表したらいいんだろう。どう伝えたらいいんだろう。
気持ちを口にするだけでは足りなくて。心の奥底からじんわりと溢れ出て自分でもこの気持ちに押さえがきかない。想いってこんなにも溢れ出てくるものなんですね、教官。
でもきっとこれは堂上教官だから、なんだ。
なんとなく気になって手を離してくれなかった理由を訊いてみたけれど、本当は理由なんて別にどうでも良くて。ただこうして堂上と手を繋いでいるのがとても幸せで。嬉しくて。教官がずっと私の手を離さないでいてくれたらいい、なんてまた乙女チックなことを考える。
指先から少しでもこの思いが伝わるといいな…。郁も同じように堂上の手を握り返した。
わざと力を込めて繋いでいる手を前後に振ると、振り向いた堂上の顔が渋面になった。
「アホゥ!少しは手加減しろ!お前の馬鹿力じゃ腕がもげるわ!」
「さっき笑った仕返しです」
郁は堂上を見てにっこりと意地悪く笑った。
fin.
デート中の堂郁。
どこからどう見てもバカップル〜♪
えっと、とりあえず幸せなラブ全開の堂郁です。エヘw
もし他のサイト様で被ってたりしたらすいません;;
2008.08.30