カミツレ図書館

     悪いのはお前だ



「郁」
 呼ばれて腕を引かれた。ソファに座る堂上の足に挟まれる形で郁は座らされた。そのまま後ろから腕が回され羽交い締めするように堂上が郁を抱き締めた。
「あ、篤さん。お風呂もうすぐ溜まるよ」
「ん。分かってる」
 だが堂上は郁を離そうとしなかった。
「篤さーん?」
 郁は風呂の溜り具合いが気になってそわそわし始めた。そろそろお湯が溜まる良い頃合いのはずだ。
「今日一緒に入るか?」
 耳元でそう囁かれ郁はぎょっとして思わず声を上げた。
「え!?それはちょっと……無理」
「何でだ」
「だ、だって、恥ずかしいし…」
 郁が蚊の鳴くような声で言うと
「風呂に一緒に入るより恥ずかしいことしてるのにか?」
 堂上からのその問いに郁は真っ赤になった。堂上の熱い吐息が郁の耳元をかすかにかすめる。
「え!?だってそれとこれとは………」
 郁は真っ赤になった顔のままごにょごにょと呟いた。
 もう〜何で今日の篤さんはこんなに意地悪なのー!
 そのまま郁が黙りこむと後ろから堂上の苦笑らしき声が漏れ聞こえた。
「冗談だ。郁、先に入っていいぞ」
 すると郁は堂上の腕から解放された。小さく頷いて「お先に失礼します」と言って立ち上がる。そのまま堂上の方を振り向かずに脱衣所にトコトコと歩いて行く。

 …ちょっといじめすぎたか。堂上は昼間の郁と吉田のやりとりを思い出した。
 新隊員を迎え入れ、郁と手塚が教官を任されてから一週間が経った。郁は自分が女であることでなめられないようにと、教官を任されてから新隊員たちの前では極力強い姿勢で臨んでいる。堂上はその分郁は自分が教官の時よりもストレスが貯まるだろうと家のことはなるべくこちらがやろうと心がけてはいるがそれでも仕事中は手出しはできない。
 今日の昼頃、柔道場で稽古をつけている郁たちの様子を堂上は館内警備のついでに見に行った。バディであった小牧に過保護は相変わらずだねと苦笑されたのには反論できなかったが。
 そこで何気無く目にした光景に不本意ながら少し妬けてしまった。郁は教官として指導をしているときは厳しく指導しめったに笑ったりしない。少しでも甘いところを見せればつけいれられることもあるからであろう。だが今日、吉田が技を成功させたのを見ると嬉しそうに破顔していた。恐らく素で出た郁の無自覚な笑顔であろうことは堂上にも分かってはいたが面白くなかった。
 郁の後ろ姿を見ながら、後でフォローを入れたほうがいいか、そんなことを考えていると不意に郁が振り返った。
「い、嫌なわけじゃないんですよ?」
 頬を桃色に染めて郁はそう言うと恥ずかしいのか最後は早足にリビングを出ていった。
 不意打ちだ。お前は何の爆弾を落としていくか。
 郁の可愛いらしい様子とその言葉に堂上は押さえようとしていた箍が音をたてて外れていくのが分かった。

 もう手加減なんかしてやるか。風呂から出てきたら覚悟しろよ。
 悪いのは郁だ、理不尽にもそう決め込けると堂上はソファにゆっくりともたれた。



 fin.








           別冊Uの堂上夫妻が最高でしたw
           もうもうなにこのバカップルは!ってな具合でw
           で、私も堂上夫妻を書いてみました。
           甘い堂郁はもう最高なのですよ!
           甘〜い堂上夫妻に悶えましたって同士さんいらっしゃ〜い!

           2008.08.22