暗闇に目が慣れてきたころ肝試しコースも中盤にさしかかった。そこで堂上の歩調が先ほどよりも早くなった。
「堂上教官〜。そんなに早足で行かないでください〜」
引き腰の郁はいつもより歩調が遅い。
「さっさと歩け!早く終わらせればすむことだろ」
郁がああそうか、と納得した顔をすると
「お前、ほんとに分かりやすいな」
堂上が郁の様子を見てふっと笑った。
あ、笑った。今カメラ持ってたら迷わずシャッター切ってたかも。普段堂上が柔らかい笑みを浮かべることはほとんどないものだから郁はそんなことを思った。柴崎がいたならば写真を売りさばくくらいのことは平気でやっているかもしれない。
思考が肝試しからずれたところで頬に冷たくてぬるっとした感触がして郁はビクッと肩を跳ね上がらせた。背筋がゾクッとする。一瞬にして現実に引き戻された。
堂上の耳を劈かんばかりの悲鳴をあげ郁は堂上に思い切りしがみついた。しがみつかれた堂上は硬直する。
「おいっ、笠原!?」
「いいい、今なんか顔にぬるっとしたものが!!」
郁の腕に力がますます加わり「落ち着け、とにかく!」と堂上が焦った声を上げる。しかし郁はそれどころではない。ぎゅっと硬く目を閉じる。
ああーもうだからやだったのよ!肝試しなんてー!ていうか、今のあの感触はなんだ!
混乱しながら思考はどんどん深みにはまり怖いという感情だけが郁の胸中で渦巻く。
「大丈夫だから、少し落ち着け」
低い声が耳で囁かれ郁は我に返った。その声と同時に頭の上に手が乗る。その手はポンポンと郁をなだめるように軽く叩いた。
郁はその手の優しさに徐々に落ち着きを取り戻した。
しばらく堂上に抱きついたままでふと頭が覚醒した。とっさにしがみついてしまったことを思い出す。焦って堂上からぱっと離れる。
「すすす、すみません!私っつい…」
「いや、いい。落ち着いたか?」
謝ると堂上にそう言われ郁は「はい」と小さく頷いた。うわ〜恥ずかしい!たぶん顔が真っ赤になっているに違いない。暗くて助かった。
「さっさとゴールするぞ」
言うと堂上は郁の手を引き訓練速度で歩き始めた。郁は先ほど堂上に抱きついてしまった失態を思い出し恥ずかしさで声も出せない。そのままほとんど引きずられるようにしてゴールした。
ゴールには小牧、手塚、柴崎が待ち構えていた。
「どうだった?肝試しは」
ゴールしてほっとした郁に柴崎から声がかかった。そこで自然と手が離される。
「二度とするか!」
郁が柴崎に突っかかるとなにやら含み笑いの柴崎に「あらそれは残念」と返された。手を繋いでいたことに関して突かれなかったことに内心安堵する。
小牧にお疲れ様と労われやっと終わったという実感がわいた。手を離されたのは少し惜しい気もするけれど。
堂上を窺うとぐったり疲れたような顔をしていた。鍛えていることもあり普段の訓練で疲れた様子をさほど見せない堂上がこんな顔をしているのは実に珍しい。もっとも部下にそんな姿は見せられないという上官としての立場もあるのかもしれないが。それでもその顔を取り繕えないでいる堂上に郁は共感を持たずにはいられなかった。
肝試しでは散散な目にあった。お調子者のタスクフォース隊員が一致団結してかかってくるのだ。しかもあの人数でかかってこられたら一溜まりもない。さらに今回は郁が完璧にお荷物になっていた。堂上の心労も納得のいくものだ。郁は申し訳ない気持ちになった。
居た堪まれなくなって堂上から目を反らすとたまたま手塚と目が合った。なにやら哀れむような眼差しを向けられる。
その眼差しの意味を不審に思いながらも気のせいだろうと思ってそれ以上の事を郁は考えなかった。
そこでそのことに気づかなかった郁は翌日になってからそれを大いに後悔することになった。
to be continued…
肝試し!さぁ次がやっとラストです;;
肝試しはここまででとりあえずは終わりです。
いろいろ読みづらかったり分かりづらかったりしてすいません。><;
さてさて、手塚の哀れむ眼差しとはいかに!?
2008.08.04