カミツレ図書館

     肝試しパニックD



 堂上の後ろをついてコースが寮に入ったころ郁は口を開いた。
「すみません、教官。でも柴崎が肝試し直前になって怖い話し出すから…」
 郁は言い訳のように言いつつ堂上の服の袖を軽く摘んだ。バレない程度に。
「あいつのやりそうなことだな」
 堂上はなかば呆れている。
 野外訓練場は寮の周りほど木々に囲まれていない。むしろ堀や穴のようなもののほうが多い。だから郁はさきほどまで気が付かなかった。森のようなその庭は暗闇だけが支配し懐中電灯の光で1メートル先がようやく見渡せる程度だということに。
 うっひゃ〜怖い。マジでなんか出たらどうしてくれんのよー柴崎!そう心の中で毒づく。
 ここで柴崎に毒づくあたりがまだ怪談話の怖さが抜けていない証拠だ。
 なんとか寮までのコースは無事にやり過ごせたが問題はここからだ。深い森のような寮を周回するコースはなんといっても大人が容易に隠れられる所が多い。隊員たちが脅かし役に扮して隠れるとしたらもってこいの場所だ。
 怖さのあまりいつも以上におしゃべりになる。堂上はそのことに気づいているようで郁の話に付き合ってくれた。
 堂上と郁が寮のコースを歩き始めて少したったころ前方の茂みがかさりと音をたてた。郁はその場で固まった。全神経がそちらへ集中する。
 茂みから現れたそれはおそらくタスクフォースの隊員の誰かなのだろう。堂上の持つ懐中電灯の光がその姿を闇に浮かび上がらせた。
 白い着物のようなものを着て長い髪を振り乱すその姿は四谷怪談の登場人物お岩を連想させる。昼間見たらそれはいかに滑稽な様子に見えたかもしれないがほぼ暗闇の中で浮かび上がったその姿は郁にとって怖いもの以外の何ものでもなかった。
 ちょうど柴崎に聞いた怪談話に四谷怪談の話も混じっていたのでよけいに郁を恐怖に陥れた。
 肩に手が伸びてきて郁はパニックに陥った。そのままぎゅっと目を瞑り相手の手を引き手にとると郁は躊躇することなく大外刈りに出た。
「お前少しは手加減しろ!」という堂上の言葉はもはや郁には聞こえておらずそのまま勢いづいて郁は堂上をその場に残し風のようにその場を走り去った。


 全速力で逃げ出してきた郁ははっと我に返った。
 ど、どうしよう。堂上教官置いてきちゃった。
 暗闇のなかで目を懲らす。懐中電灯は堂上が持っているので郁は持っていない。目を瞑ったままがむしゃらに走ってきたので今自分がどこにいるのかさえも分からなかった。
 一人になってじわりじわりと郁の額に冷や汗が滲む。
 堂上教官のところに戻ったほうがいいよね。でも戻るのすごく怖い。進むのも怖いし…。でもやっぱりペアでゴールしなくちゃだろうし、教官置いてきたままっていうのもまずいよね。
 郁が葛藤し始めたところで後ろから物音が聞こえた。郁は肩をびくりとふるわせた。それは確実にこちらへ近づいて来ているようだ。気配だけで分かった。
 その瞬間肩を捕まれた。
「イヤーっっ………」
 郁が叫び声をあげたところで後ろから口を塞がれた。叫び声が中途半端なところで途切れる。
「アホゥ!俺だ!」
 声をかけられて塞がれていた手が離された。
「堂上…教官…?」
 郁が恐る恐る振り返ると
「まったくお前はどこまで走れば気が済むんだ!こっちは随分探したぞ」
「す、すみません…。」
 縮こまって堂上に頭を下げると堂上の苦笑らしき声が聞こえた。思わず顔を上げると
「ほら、行くぞ!」
と手を捕まれた。
「きょ、教官!?」
「また迷子になられて探すんじゃこっちの身が持たん」
 堂上に引っ張られて郁は歩き出した。




to be continued…








           やっと堂上と郁の肝試し編でございます;;
           お待たせしているわりにはたいしたものじゃなくてすいません;;
           まだ続きます。次も堂郁中心になると思います。

           2008.07.25