肝試しパニックB



 聞くんじゃなかった!!
 柴崎に背中を押されながらたどり着いた玄関前で郁は思った。どうやら自分たちが一番乗りらしくまだ玄関前には隊員の誰もいない。
 食堂で夕食を済ませ、風呂にもゆっくり浸かったあと、郁が柴崎に聞かされた「肝試しが怖くなくなる話」というのはまさに怪談話であった。
 最初おかしいなとは感じたが最後まで聞くのが道理であるし、最後まで聞かなければ効果はないと言われていたので大人しく聞いていたのだが。二つ聞いたところでさすがに変だ!と思い柴崎に問いかけると「最後まで聞かないと効果ないって言ったでしょ?それにこれからよ」と言われて郁は結局最後までその怪談話を聞いてしまった。
 「そろそろ時間ね」と柴崎が立ち上がった頃には郁は怖さのあまり立ち上がれなくなっていた。なにしろあの柴崎が話をするのだ。リアリティーがありすぎる。ここぞとばかりに柴崎の迫真の演技が入り郁はその度に飛び上がって悲鳴を上げた。あんた図書館員じゃなくて女優になれば良かったじゃないと思うくらいには凄まじい演技力であった。
 こんなことになるなら反対しておけば良かった。辞退しなかった自分の判断が恨めしい。今更ながら郁は後悔の念にかられたが柴崎に強引に集合場所の玄関前に連れてこられてしまってはもうどうしようもない。それに誰もいない部屋に一人で戻るのは今の郁にとってもっと怖かった。
 肝試しの件を玄田に聞かされてから、やってやろうじゃないの!肝試し!と腹を括り意気込んでいた郁は柴崎の怪談話のせいで力が抜けいつもの負けん気の強さはすっかり消え失せていた。
「柴崎ぃ〜」
「大丈夫よ。別に一人で行くわけじゃないんだから。誰かとペア組んで行くわけだし」
 二人でも十分怖いんですけど!内心つっこみながら泣き言を言う。
「うう〜行きたくないぃー」
 郁と柴崎がそんなやりとりをしていると堂上班男子三人がやって来た。その様子を柴崎は一瞥すると
「そうだ!笠原。あんた堂上教官と組んでもらいなさいよ!」
 柴崎が三人に聞こえるように郁を振り返り言った。郁はもう涙目になっている。
「なんだ?」
 柴崎の話が聞こえたらしい堂上が話しかけてくる。
「笠原が行きたくないって駄々こね始めたんですよー」
 半泣き状態の郁の代わりに柴崎が応えた。小牧は苦笑している。
 あんたのせいでしょ!と怒鳴る気力さえ郁にはもう無い。とにかく誰でもいいから付いて来て欲しい。一人では絶対行きたくない。今の郁の頭にはその考えしかなかった。
 手塚が小声で「…やっぱり怖いんじゃないか」と言っているのが聞こえたがその通りなので郁に言い返す術はない。
 堂上はなんで俺がと言いかけて言葉に詰まった。郁の目が涙で滲んでいたからだ。
「アホゥ!泣くほど嫌なら部屋にいれば良かっただろうが!」
「だって!一人で待ってるほうが怖かったんですよぅ〜」
 今にも涙がこぼれ落ちそうな郁を見て堂上はたじろいだ。
「あ〜もう分かった。一緒に行けばいいんだろう。だから泣くな!」
 堂上はなかば無理矢理にそう言うとそっぽを向いた。



to be continued…








           すいません。まだ続きます。
           やっと肝試しに入るぞってところでまた区切ります(苦笑
           柴崎の怪談話はきっとムード満点だと思う。
               
           2008.06.25