相合い傘【郁ver.】


 どんよりした曇った天気だった。分厚い雲が空を覆っている。
 曇っていたので少しくらい外に出るのは大丈夫だろうと油断していた。傘も持たずに寮を出たのを郁は今更ながら後悔していた。
 コンビニでデザートを苦戦して選んだ後、外に出た瞬間どしゃ降りの雨が目に入った。
 やはり、天気予報は当たる。今朝の天気予報で午後は降水確率70%と言っていたので降るだろうとは思っていたが…。不意打ちの雨に盛大なため息を吐く。どうやらたった今降り出したようでコンビニの駐車場から走り出す車の止まっていた所を見るとまだ濡れいていない路面が顔を出した。
「あー失敗したな」
 郁は一人呟いた。柴崎にも傘を持っていったほうがいいと言われたのだが、すぐだし大丈夫!、と言って出てきた自分に悪態をついた。
 仕方ない、買った物は袋に入っていることだし、ダッシュで寮に戻ればなんとかなるだろう。
 郁はコンビニから駆けだした。思っていたよりも濡れるペースが早い。雨粒の大きさが大きい。ふと郁が大木の下の草むらに目をやるとビニールの傘が捨ててあるのが目に入った。そちらのほうへ走る。
 ラッキー♪  郁は大木の下につくとその傘を拾い上げた。放置されていたからだろう、少し汚れているが見た限りでは使えそうに見えた。
 勢いよく傘を広げる。すると思っていたより脆かったらしい。傘の部分と柄の部分が見事に外れた。折れたという表現に近い。
 郁は折れた傘を見ると呆気にとられた。ようやくつかみとった希望が打ち砕かれる。
 あ、でもはめ込めば少しの距離なんとか使えるかも。郁はそう思い、傘と格闘し始めた。郁が傘を直そうとすればするほどその傘はさきほどよりもどんどん酷い状態になっていった。
 音で先ほどよりも雨脚が強くなっていることに気づく。
バキッ。
「ぎゃっっ」
 盛大な音をたてたかと思うととうとう傘は使い物にならなくなった。

「何をやってるんだ、お前は」
 聞き覚えのある声に顔を上げると傘をさした堂上が郁の所に微笑しながら小走りに来るのが見えた。
「堂上教官こそ、何してるんですか?」
「俺もお前と似たようなもんだ」
 郁との距離を縮めると堂上が手にしていたコンビニの袋を少し持ち上げて見せた。堂上が郁の手にしているものを見ると
「なんだその傘は。お前馬鹿力だな〜」
と感心したような声を上げた。
「ち、違いますっ!これはっ…」
 郁はそこでどう説明したらいいか口籠もった。堂上は郁のその様子に気にする様子もなくほれ、と声をかけた。郁が怪訝な顔をすると
「入ってけ。どうせ目的地は同じなんだ」
と言って郁に傘をかざしてきた。その申し出は今の状況ではとてもありがたく郁は大人しくすみません、と言って堂上の傘に入った。さすがに二人で傘を差すのは少々厳しかったがそこは我慢する。
 寮への道を歩きながら堂上が口を開いた。
「小牧と手塚三人で俺の部屋で飲んでたんだがちょうど酒がきれてな。共同スペースの自販機で買ってもよかったんだが、つまみもなくなったからって俺がコンビニまで買いに行くことになったんだ」
「あ、そうだったんですか〜。こっちも柴崎となんか甘いもの食べたいねーって話をしてて、私が買いに行かされることになったんです。あいつ、ジャンケン強くて…」
 郁はそのときは私の不利だろー!などと抗議したがこうして堂上に逢えたので現金にも柴崎に心の中で感謝した。
 堂上は苦笑している。郁は何か変なこと言ったかな?と思ったが訊かなかった。それよりも堂上の肩と自分の肩が少し当たっていることに気づいて心臓がドキリと飛び跳ねた。今更ながら堂上との距離に胸が高鳴る。
 顔、赤くなければいいんだけど。
 それを紛らわすように郁はどうでもいい話を堂上に持ちかけた。堂上は話に普通に乗ってくる。
 これって…。相合い傘だよね?普通は恋人とかがする。うわぁ〜今更だけどなんか恥ずかしくなってきた。
 でも、なんかもうちょっとこのままでいたいな〜。乙女モードに入りそうになって慌ててそれを制した。

「相合い傘なんて仲のよろしいことですわねー」
 郁と堂上が寮の玄関まで来たときだった。柴崎がからかい口調で傘を持って玄関に歩いて来るのが見えた。
「あれ?なんで柴崎ここにいるの?」
「あんたが傘持って行かなかったから心配して迎えに行こうとしてたんじゃない」
「ごめん、ありがとう」
 柴崎の言葉に郁は素直に謝罪と礼をする。
「でも必要なかったみたいねー。逆に仲良く相合い傘してるお二人さんの邪魔しちゃったかしら〜?」
 柴崎がにやりと笑った。郁は真っ赤になって思わず声を上げた。
「してない!」
 堂上は眉間に深く皺を寄せ苦虫をつぶしたような顔をしている。もう平気だな、と言うと傘を畳んでそそくさと男子寮への廊下を歩いて行った。
 堂上の後ろ姿を見て郁は気がついた。郁と肩が当たっていなかった方の堂上の肩が濡れていた。そこで、ああ私の方を優先して傘に入れてくれたんだと気づいた。
 悪いことしちゃったなとは思ったがそのことに嬉しくなって思わず顔がにやけた。
 また、乙女モードに入りそうになったところで柴崎がこちらをにやにやと見ていることに気づいて慌てて郁はにやけ顔を正した。


fin.








           今回はありがちな相合い傘のお話を書いてみました。堂郁。郁ver.です。
           時間があったら堂上ver.が書きたいな〜と思ってとりあえず郁視点のつもりです。
           危機後あたりの設定のつもりです。
           実は、これ私の実体験(苦笑 お話とは少し違いますが。
     
           2008.05.02