肝試しパニック



 「次の飲み会は肝試しに変更になった。以上だ!解散」
 朝の朝礼の最後に玄田はそう付け加えると有無も言わさず去っていった。
 ちょっと待って!なんで飲み会がいきなり肝試しなんかになるのよ。郁が堂上班三人組に疑問を含めた視線を送ると三人も驚いているようであった。他の班も見渡してみるが堂上班メンバーほどは驚いていないように見える。
 つい一週間ほど前、タスクフォースのメンバーで飲み会をすることが決まった。男ばかりの隊員で酒も強い者が多いため飲み会の回数は必然的に図書館員の飲み会よりも多い。正直やりすぎではないかと郁は思っていた。だがそれほど酒好きな者も多いため飲み会の回数に口出しする隊員はいなかった。というよりもその回数が普通になっているというほうが正しい。
「玄田隊長、また何かよからぬことを企んでるんじゃないですか?」
 事務室に戻った郁は一緒に戻ってきた堂上班メンバーにそう切り出した。
 堂上が渋い顔をしているのを郁は見逃さなかった。
「まぁ。あの人のやることを止められる人なんていないでしょ」
 小牧は呆れたように苦笑している。
「でもどうして、飲み会がいきなり肝試しに変更になるのかが理解できません!」
「また気分だ、で押し切られるだけだと思うがな…」
 堂上は諦めたようにそう言うと自分の席に着いて溜まった書類に目を通し始めた。手塚も尊敬する上官が席に着いたのでそれに倣う。
「手塚だって変だと思うでしょ!」
 平然とした様子の手塚に郁が憤慨したように話を振ると「まぁ変だとは思うけどな」と適当な返事が返ってきた。
「ていうか、なんでお前はそんなに必死になってるんだ?」
 手塚のその一言で郁は言葉に詰まった。
 そうなのだ。玄田なら堂上の言ったように気分だ、で押し切ってやるだろうことは明白である。それでも郁には肝試しを反対したい理由があった。
 そう、変更されたものが肝試しでなければ…。郁は奥多摩の訓練で行われたときの玄田が新隊員に恒例行事として仕掛けているドッキリを思い出した。あの時はさすがにありえないと思ったが、今考えてみれば熊ならまだましな方だ。実態があるのだから。
 肝試し。夏にかかせない醍醐味といったその肝試しが郁はあまり得意ではなかった。ホラー映画などは怖いと思いながらも結局気になってしまい怯えながら怖いモノ見たさで見てしまうのだが。
 いくら170センチの大女で戦闘能力が高いと言ってもそんなものが幽霊やお化けに通用するわけがない。
 肝試しであるのだから脅かすのは人間であろうが肝試しという単語だけでその事実は郁の頭の片隅に追いやられていた。
「別に必死になんてなってないけどっ!」
 手塚に切り返した言葉は動揺のあまり変に語尾が強くなった。
「もしかして怖いのか?」
 手塚が微妙にからかうような口調になったのが気に食わなかった。郁は思わず口を滑らせた。
「まさかぁ〜そんなわけないでしょ!肝試しでしょ、肝試し!」
 目を泳がせて言う郁に小牧が吹き出しそうになった。その態度はあまりにも分かりやすい。堂上は目だけで郁を見るとお前はバレバレだなと心の中で呟いた。


 その日の夜。
「ねぇ、柴崎」
 テーブルの上にファッション雑誌を広げ片手で頬杖をついている柴崎に郁は今朝の話を切り出した。柴崎は雑誌から顔も上げずに郁の話に耳を傾けていた。
「ああ、それ。あたしも行くから」
 郁の不満も含めた話しぶりに柴崎の返答はそれだけだった。予期していなかった返答に郁は目を丸くする。
「え?なんで柴崎がくるのよ。タスクフォースだけの飲み会のはずなんだけど」
 図書館員である柴崎がなぜ参加をするのかが分からない。確かに飲み会ではなくなり肝試しになったがそれでもタスクフォース内でのイベントのはずだ。疑問をそのままぶつけると柴崎からの返答は実にあっさりとしたものだった。
「だって、面白そうじゃない」
 お、面白いって…。そんなんで参加していいのか!?と郁が叫ぼうとしたところで
「玄田隊長にはもう許可とってあるから」
と言われた。
 郁の嫌な予感が一層大きくなる。まさかこの件に関して柴崎が関わっているのではないだろうか。
 昼間手塚に「怖いわけない」と言ってしまった以上今更不参加を申し出る訳にもいかない。郁は後へ引けない状況に陥ったということになる。
 頭を抱えてうーあーと唸りだした郁を柴崎は面白そうに見遣った。




to be continued…





            すみません、続きます。設定に無理あってすいません;;
            たいして長い話でもないですが、1ページを長くしすぎると読みづらいかなーと思いまして;;
            さあ、波瀾万丈のタスクフォース物語の始まりだ!(なんだそれ!
            
            2008.06.13