カミツレ図書館

     変化



「なぁ。笠原が変わったってよく聞くけど、堂上二正もなんか変わったよな」
 カウンター席で自分の隣に座る柴崎に手塚は唐突に話を切り出した。
 今日は堂上と郁がデートらしく、飲みに行くわよ、と無理矢理柴崎に引っ張り出されたのであった。
「なぁに?」
 柴崎が怪訝な顔をする。
「いや、なんていうか。公私混同はしないように気をつけてるみたいだけど、時偶ときたま笠原見てるときの視線が違うっていうか…」
「違うって何がよ?」
 手塚はどう言ったものかそこで少し躊躇したが苦戦して次の言葉を紡ぎ出した。
「時偶なんかものすごく優しい目してるっていうか…」
 そこで手塚が言葉に詰まると柴崎の目が細くなった。
「ふぅん」
 いやらしいような笑みを浮かべると
「あんたに悟られるようじゃ堂上教官もよっぽどね」
と呟いた。
 それはどういう意味だ。鈍いと言いたいのだろうか。確かに自分はそういったことに対して疎いのかもしれないが柴崎の口調が引っかかる。文句の一つでも言おうとしたところで柴崎がそれを遮った。
「あんたが気づいてるってことは小牧教官は当然気づいてるわね。まぁ本人達は気づいてないんでしょうけど」
 そう言ってグラスを呷ると
「あー惜しいわねーそれ。その場にいたら私も教官ウォッチングしたいところだわ」
と付け加えた。
 カウンターの上で柴崎が頬杖をつく。
 そんな柴崎の横顔を見ながら手塚はふと思った。そういえばあの二人が付き合いだしてから柴崎もなにか変わった。
 二人を見るとき、二人の話をするときの柴崎はとても温かな見守るような優しい目をしている。それは見守っていた二人が付き合い出したことに対しての喜びとか郁に対しての思いやりなどがあるのだろうが。だがその中にもどこか寂しげな色が窺える。
 嬉しさの反面、もしかしたら本当は寂しいのかもしれない。郁の一番の友人であると真っ先に主張することのできる柴崎だからこそ郁が柴崎から遠退いたように感じてしまうのかもしれない。
 そういうことを表に出さずに自分の中にしまい込むから一人でそういった孤独を抱えてしまっているのかもしれない。本人は無意識なのかもしれないが。
「暇なときに飲み来るくらいなら付き合えるけど」
 手塚はいつのまにかそんな言葉を漏らしていた。
 すると柴崎が驚いたように目を瞠り手塚を見た。しかしその表情は瞬時にして消え去るといつものように男達が一瞬にして落ちるような微笑をたた
「こんな美女に付き合えるならあんたも本望でしょう?」
と言った。それから柴崎は自分のグラスを軽く揺らしながらさらに付け加える。
「今日はごちそうさま」
 手塚は柴崎のその言葉にぎょっとした。
「おまっ…俺が払うのかよ!」
「あら、だって付き合ってくれるんでしょ?あんたあたしにいくつ借りがあると思ってるのよ」
 柴崎がにっこりと微笑んだ。普通の男ならここで柴崎に見惚れるところなのであろうが手塚はその柴崎の微笑みにがっくりと項垂れた。



fin.








           初手柴です!この二人は難しいです、いろいろと。微妙に堂郁入ってますが。
           別冊で手塚が郁に「お前のことよく見てる」と堂上のことを話していることからこのお話が思いつきました。
           手塚がこのことを言う少し前くらいの話として受け取ってください。
           自白するとまず、郁を見ているときの堂上がどんな顔をしているのかが一番書きたかった!
           それから手柴に発展しました!でも、おまけで書いたつもりはないですよ!手柴書くつもりでいましたよ!
            この微妙な距離を保つ二人も好きだったりします。
     
           2008.06.06