こっちもかまえ!



 堂上と郁の二人で館内警備をしていた時だった。どこからともなく図書館の外から子供達のはしゃぐ声が聞こえてきた。その声で郁はふと思い出したように堂上に声をかけた。
「堂上教官、今日はあの猫来てますかね?」
「猫?」
 堂上の怪訝な顔に
「え?知らないんですか?」
郁は驚いて声を上げた。
 最近図書館にある一匹の猫が入り浸っている。どこから来るのか、飼い主はいないのかは分からないがどうやら野良猫らしい。図書館に来る子供達の話題にその猫の話題があり郁は必然的にその猫の存在を知らされた。
 子供に好かれやすい郁としては一番子供と接する機会が多かったのでその猫のことを知ったのももう随分と前だ。だから当然堂上もその猫を知っていると思っていた。
 猫の説明をした後に
「子供達が猫に餌って言うか食べ物をあげちゃうみたいで猫が図書館に入り浸ってるんですよね」
そう付け加えた。
「別に猫が悪さをしてるってわけじゃないんだけどそういうのがエスカレートしたらちょっと…」
 一匹の猫くらいならかまわないのだがもしそれがエスカレートして猫の数が増えるようなことになれば被害も多少なりとは出てくる。郁はそれを心配していた。
「そうだな」
 堂上も郁と同意見のようだった。
「寮ではペット禁制だから飼えないし、子供達も喜んでるから強く注意はできないし…。飼ってくれるって人が見つかるのが一番いいんですけど…」
 一匹くらいだったら誰か飼ってくれる人もいそうだけどな。だが飼ってくれそうな人の心当たりが郁にはない。
 郁が「困ったな」としょげていると堂上が郁の頭をポンと軽く叩いた。
「飼ってくれる人がいるかどうか図書館利用者に呼びかけてみるか」
 あっ、そうか!その手があったか!郁はぱぁっと顔をほころばせ「はい!」と頷いた。

 それから郁は訓練と業務の合間をぬってポスターを作り始めた。
 昼の休憩時、素早く昼食をすませた郁は事務室に戻るとポスターの続きを書き出した。
 少し経つと郁の後から昼食をすませたらしい小牧と手塚が事務室に戻ってきた。
「お前何やってんだ?」
 郁がせっせとポスターを書いていると手塚がそのポスターを横からのぞき込んだ。
「何って、ポスター書いてるんだけど」
「そんなの見れば分かる」
「それってあの野良猫のポスター?」
 手塚とそんなやり取りをしていると小牧もポスターをのぞき込んできた。
「はい。やっぱり小牧教官は知ってましたか」
「ああ、うん。随分前に毬江ちゃんが可愛い野良猫がいるって言ってたからね」
「そうなんですよ」
「ああ、それで飼い主募集中、なんだ」
「はい」
 小牧はポスターに書かれた見出しの大きな文字を読むと納得した。
「へぇ。お前、結構上手いな」
 横からのぞき込んでいた手塚が感心したような声を上げた。
「でしょ?こういうの書くの好きなんだよねー」
 手塚に珍しく褒められた郁はここぞとばかりに胸を張る。鼻歌でも歌いだしそうだ。
 郁は先日子供達に協力してもらい撮った猫の写真を取り出すと器用にはさみで丸い形に切り出した。
「あっ三毛猫なんだ。結構可愛いね」
 小牧がその写真を見て言うと「ですよね!」と郁は目を輝かせた。手塚にも同意を求めている。その姿は猫並みにかわいらしく見えた。どちらかというと彼女は犬に近いのだろうが。
 これは堂上も苦労するね、小牧は心の中で思うとククッと笑いを漏らした。
「毬江ちゃんにも飼えないか聞いてみるよ」
 郁はその言葉を聞くと「ぜひお願いします!」と笑顔になった。

 それからも郁は休憩時間になるとポスター作りに励んだ。
 堂上の機嫌が日に日に悪くなっていっている気がしたが、ポスターを書くことは休憩時や寮に帰ってからやっているし、呼びかけてみるかと提案したのは堂上であったのでこれのせいじゃないよね?と郁は無理矢理自分を納得させた。
 柴崎にも一応「堂上教官どうしたのかな?」と訊いてみると「教官も彼女がこれじゃあ苦労するわね」と言われた。「なんだ、それ!やっぱり私のせいかよ」とぼやくと「まぁあんたのせいっちゃそうかもしれないけど、教官の問題だから気にすることないわよ」と軽くあしらわれた。
 郁はその柴崎の意味深長な発言が気にならないわけでもなかったが「何かあったら教官もあんたに言ってくるでしょ」と言われ、それもそうかと納得した。
 


 そんな数日がたった日の休憩時、
「できたー♪」
 郁は自分で作ったポスターを手に取って眺めると満足そうに呟いた。写真を貼った以外は全て手書きで仕上げてある。我ながらなかなかのできだと思った。
「堂上教官、私ちょっとポスター貼ってきます!」
 言うと郁は椅子から立ち上がり「お前変なところに貼るなよ」と言う堂上の言葉に「はい!」と噛みつきもせず素直に頷き事務室を出て行った。
 郁が事務室を出て行った後その一部始終を見ていた小牧が笑い声を漏らした。
「堂上、拗ねない、拗ねない」
「べつに拗ねてない」
 そう切り返す堂上の声は明らかに不機嫌だ。
「堂上も苦労してるねー。最近、笠原さん猫に構ってばっかで堂上に見向きもしないもんね」
 不本意だが小牧のその言葉はあながち嘘ではなかった。最近の郁は何かと猫ばかり気にしている。お前、俺よりも猫のほうが好きなんじゃないか?と思わず言いそうになったほどだ。郁は純粋に猫の飼い主をを探していたが堂上は違う意味でさっさと飼い主が見つかって欲しいと思った。
「笠原さんに相手にされなくなったら慰めてあげるよ」
 小牧はそう言うと盛大に笑い声を上げた。
「よけいなお世話だ!」
 堂上は吐き捨てるように言うと自分も席を立った。堂上が事務室を出ると小牧の笑いがいっそう大きくなった。

 その日の夜、堂上は「外にでも出るか」とメールで郁を呼び出した。いつものように共同ロビーで待ち合わせると二人揃って外に出た。
 歩いている途中の郁は「ポスターの評判結構いいんですよ!」「もしかしたらもうすぐ猫の飼い主見つかるかもしれません」などと猫の話題ばかりを話していた。
 寮を周回するコースまで歩いてきたところで堂上は郁を抱きしめた。郁は驚いて硬直したがその後それはすぐに緩んだ。郁の耳元で堂上は囁いた。
「猫は分かったから。お前猫ばっかかまってないでこっちもかまえ」
 言った後堂上が郁にキスをすると郁は驚いたように目を瞬いた。
「え?もしかして、最近機嫌があまり良くなかったのはそのせいですか?」
 郁にはっきりと図星をつかれ堂上はふて腐れたようにそっぽを向いた。
「悪いか」
 そっぽを向いたままの体で言うと郁はくすくすと笑い出した。
「堂上教官、かわいい…」
 まったくどっちがだ。
「お前な今までほったらかした分覚悟しておけよ」
 堂上は今度は郁に深く口付けた。




 fin.





            糖分補充です!甘いの欲しくて書いてみたのですが。なんかすいません;;
            他のステキサイト様ならもっと素晴らしい甘甘が読めると思います。ほんと、ボキャブラリー不足な管理人ですいません;;
            猫ちゃんにやきもちを焼く堂上教官(萌)天然な郁ちゃんはこうしていつも堂上教官をやきもきさせてればいいと思う。
            
            2008.05.31