故意



 柴崎との寮の風呂の帰り、郁は共同スペーズの自動販売機に寄らないかと提案した。柴崎もどうやら風呂上がりで喉が渇いていたらしく郁の提案に「そうね」と頷いた。
 郁は先にスポーツドリンクを買い柴崎が買うのを待っている間ソファに座り込み買ったばかりのスポーツドリンクを開けて口にした。
 ふと肩の痛みに顔を歪めた。自分の肩に手をあてる。日頃訓練で鍛えているつもりだが最近は館内業務ばかりやっていたので今日の久々の訓練で筋肉痛になったようだ。やっぱり久々に体を動かすと筋肉痛になるんだよなー。
 普段の鍛え方が違うので耐えられない痛みというわけではなかったがそれでも筋肉痛というのはつらいものがある。
 郁が自分の肩を揉んでいると「なに?痛めたの?」と柴崎が郁の隣に腰掛けた。
「いや、そういうわけじゃないんだけど…。なんかここんとこ館内業務ばっかりしてたから久々の今日の訓練で筋肉痛になったみたい」
 郁が筋肉痛ってつらいよねーと何気なく言うと柴崎に「あら、あたしが肩揉んであげようかー?」と言われた。
「え?いくら払えばいいの?」
 郁は仰け反り真顔で尋ねた。柴崎が金もとらずにそんなことをしてくれるとは郁には到底思えなかった。
「人を金取り主義みたいに言って。失礼しちゃうわねー」
 違うのか!?と思わず言いそうになったがそれを言ったらどんな仕返しが返ってくるのか分かっているので口にしない。
「あんた最近苦手な館内業務頑張ってたみたいだからこの柴崎麻子様が労ってあげようかと思ったのに。やっぱりやめようかしら〜」
 肩を揉んでもらえるなら正直ありがたい。自分で揉むにはどうしてもやりづらい場所だ。
「わぁ〜、お願いします!柴崎様!」
 郁は柴崎の気が変わらないうちに!と顔の前で両手を合わせお願いのポーズをとった。柴崎はそんな郁の様子を見ると
「よろしい。私肩揉み上手いんだから。あんたタダでやってもらえるなんて相当ラッキーなんだからねー」
と言って郁の背後にまわった。
やっぱり金とるつもりだったんじゃないか!郁は思いつつペットボトルに蓋をした。
 幸い共同スペースには誰もいなかったので郁も柴崎もついつい気が緩んだ。普段なら部屋へすぐに戻っているところだが風呂上がりで火照っていた体も少し冷ましたくなってそのまま共同スペースのソファに二人して居座った。
「わぁ〜柴崎、気持ちぃ〜」
「でしょ〜」
 柴崎が肩揉みを自分で上手いというだけあり気持ちが良くて思わず声が出た。
「んっ。柴崎、そこもっと強め〜」
「はいはい」
 柴崎は郁の要望に手際よく応えていく。
「あっ」
 郁の口から声が出てこれは楽しいと柴崎はいやらしい笑みを浮かべた。幸い郁から柴崎の顔は見えないので企んでいることはバレまい。
 そんな柴崎の企みはつゆ知らず、郁は純粋に柴崎の労いに感謝していた。
「やっ。んんん」
「なーに?ここが気持ちーの〜?」
「んんっ」
 郁がそう声を漏らしたところで衝撃の痛みが頭にはしった。
「いったぁ〜」
 涙目になって痛みのきたほうを見上げると
「気色悪い声を出すんじゃないっっ!!」
 そこには堂上と小牧がいた。どうやら二人も寮の風呂に行っていたようで少し髪が湿っている。頭に走った痛みは堂上の拳骨であったと分かった。
「ちょ、いきなり何するんですかー!?」
 郁が立ち上がって抗議すると「お前が変な声出してるからだろ!」となぜか怒鳴られた。
「変な声って!私はただ柴崎にマッサージしてもらってただけなんですけどー!?」
 郁がむくれると郁と堂上のそのやりとりに上戸に入りかけていた小牧が吹き出した。
「ぶはっっ。笠原さんがあんまり色っぽい声出してるから動揺しちゃったんだよ、堂上」
 やっとのことでそれだけ言うと小牧は腹を抱えて笑いだした。堂上が「小牧!!」と怒鳴っているがもう本人にその声は届いていない。
 郁としてはそんな声を出しているつもりはなかったので頭の痛みを堪えながら怪訝な顔になった。
「そういうことは部屋でやれ!」
 堂上は投げやりにそう言うと柴崎にも睨みを利かせた。柴崎は「すいませーん」などと悪びれた様子も見られない。
「行くぞ!小牧!」
 堂上は小牧を置いてさっさと男子寮の方へ行ってしまった。

「柴崎さん、わざとでしょ」
 小牧のその言葉に
「ええ、もちろん♪」
と柴崎は応えた。
「でも次からはそういうことは部屋でやってね。他の男子隊員もいるんだから」
 小牧がそう言うと柴崎は「はぁーい」とご褒美をもらってはしゃぐ子供のような返事をした。
 その後小牧は軽く手を挙げておやすみ、と言って堂上の後を追いかけて行った。
「ねぇ、柴崎。わざとってなんの話?」
 郁には小牧の言っていたことが理解できずに首を傾げる。
「えー別になんでも〜。ただあの人がどんな反応するかなーと思って」
 柴崎は「私たちも部屋に戻りましょー」と言うと軽やかな足取りで郁の前を歩いていった。予想通りの反応で思いの外楽しめたわ〜などと柴崎が言っているのは郁には聞こえなかった。



 fin.





            馬鹿話ですいません。私が書くものはいつも堂上が哀れなことに…。
            こういう馬鹿っぽい話も書きたくなるんです。嫌いな方いたらすいません;;
            私が書くものは手塚の登場度低くてすいません。ごめんねー、手塚ー!書けるときはちゃんと書くから!(ぉぃ;
            
            2008.05.27