相合い傘【堂上ver.】



  いつものように堂上の部屋で小牧と手塚が酒を持参して一緒に飲んでいた。
「あー。堂上、酒きれた。買ってこい!ついでにつまみもあると助かる」
 勝手なことを言い出したのは小牧だ。お前、酔い始めてないか?、というのは訊かないでおく。
「おい、なんで面倒ごとを俺に押しつける。ここは公平にするべきだろ」
 普段はそんなに飲み過ぎるまではいかないが堂上班は明日が公休というだけありいつもより羽目をはずして飲んでいた。
「あ、じゃあ俺行きますよ」
 手塚が申し出たがそれを小牧が制した。「いいの、いいの。ここは班長が適任でしょう」などと訳の分からないことを言ってくる。
 なんで今日の小牧はこんなにピッチがはやいんだ?堂上は首を傾げた。
「おい、じゃあせめてじゃんけんくらいさせろ!公平に」
 堂上の申し出に仕方ないな〜と言って小牧は右手で拳を作った。
「じゃあ、手塚、じゃんけんだって」
 公平なようで公平じゃないのがじゃんけんだったりする。負けたのは堂上だった。結局買いに行かされることになった。自分が出した申し出だけにさすがにこれ以上は何も言えない。堂上は渋々自分の部屋を出た。

 外は雨が今にも落ちてきそうな天気だった。堂上は傘を一本手に取る。まだ雨は降っていないようだったので差さずに外へ出た。
 少し歩いたところで雨がぽつぽつと降り始めた。傘を開くか開かないかのうちにあっというまにどしゃ降りの雨に変わった。
 タイミングがちょっと悪かったか。堂上は苦虫を潰した。まぁ傘を持っているだけずいぶんとましなのだが。やはり雨の中外に出るというのは気が進まない。
 コンビニで適当に酒とつまみを買うと堂上は足早に外へ出た。
 ふと目をやると前方の大木の下に誰かがいることに気づく。あれは……笠原だ。
 なにやら傘と格闘している。真剣な表情で傘と格闘している姿がなんだか微笑ましい。
 かわいいな、ふとそんなことを思って堂上は微笑した。郁は堂上に気づいていないようでまだ傘と格闘している。
 その瞬間傘が折れた。郁が傘を唖然と見て、がっくりと項垂れているのが分かる。
 傘は見たところ汚いビニール傘で、いくらなんでも郁のものではないだろうと思った。放置されている傘なんて壊れやすいものだ。まして安っぽいビニール傘なんて特にだ。
 こんな雨の中傘なしじゃ辛いだろう。堂上は郁の元へ小走りに駆け出した。

「何やってるんだ。お前は」
 小走りにかけながら郁が聞こえるであろう距離まで近づくと声をかけた。郁は堂上に気がついて顔を上げた。
「堂上教官こそ、何してるんですか?」
 堂上がここに来ることは予想外だったのであろう、少し驚いた顔をしている。
「俺もお前と似たようなもんだ」
 郁の手にしていたコンビニの袋は眺めていたときから気づいていたのできっと郁も同じような状況だろうと理解し自分の持っていた袋を郁に見えるように少し持ち上げた。
 先ほどから眺めていたので郁の手にしている傘がどうしてそのような悲惨な物になってしまったのかは分かっていたがあえて堂上は問いかけた。
「なんだその傘は。お前馬鹿力だな〜」
 理由を知っていながらからかうのは意地が悪いかもしれない。
「ちっ違いますっ!これはっ…」
 予想していた通りの反応を返された。郁はそこで口籠もり後の言葉が続かなくなった。  きっとどう説明したものか悩んでいるに違いない。訊かなくても分かっているので堂上は傘をかざした。声をかけると郁は意味が分からないらしく怪訝な顔をした。
「入ってけ。どうせ目的地は同じなんだ」
 元々これが目的だったので堂上は今度は分かりやすく言う。
 すると郁はすみません、と言って大人しく堂上の差す傘の中に入ってきた。やはり困っていたらしい。
 二人で傘をさして歩き出すと郁のほうが身長が少し高いことを思い出した。堂上は少し傘を持ち上げた。自分のその身長の低さが恨めしい。それを言ってもどうにもならないことは分かっているのだが、せめてあと三センチでもあれば郁との身長差が少しはましになるのだろうか。そんな自分のくだらない思いを打ち消すために口を開いた。
「小牧と手塚三人で俺の部屋で飲んでたんだがちょうど酒がきれてな。共同スペースの自販機で買ってもよかったんだが、つまみもなくなったからって俺がコンビニまで買いに行くことになったんだ」
「あ、そうだったんですか〜。こっちも柴崎となんか甘いもの食べたいねーって話をしてて、私が買いに行かされることになったんです。あいつ、ジャンケン強くて…」
 あまりにも自分の状況と郁の状況が似ていたので思わず堂上は苦笑した。
 そっちもそっちで買いに行かされることになったのか。
 郁が不思議そうに堂上を見ていたが訊かれなかったので何も言わなかった。
 俗に言う相合い傘ってやつだな。ふとそんなことを考えたがきっと一緒に傘に入っている郁はそんなことには気づいていないだろうと思って僅かに落胆した。そんな自分の思いに少しばかり動揺する。
 そこで郁が新しい話題を持ち出したので少しほっとして話に乗った。
 肩がふれあうほど近くにいるので自然と郁のほうへ目がいく。よく見ると郁の着ている服や髪が少し濡れていることに気づいた。風邪でも引いてくれるなよ、と思い郁側に寄せていた傘をさらに濡れないようにと寄せた。
 この温度が心地よくてもう少しこのままでいてもいいなと思った。
 「王子様卒業宣言」をしてくれた郁は少しは今の自分のことを見てくれるようになったのだろうか。そんなことを考えて最初の一歩を踏み出してみてもいいのかもしれないと思った。

「相合い傘なんて仲のよろしいことですわねー」
 ちょうど二人で玄関まできたときだった。そこには柴崎が待ち構えていた。
「あれ?なんで柴崎ここにいるの?」
 まいった。風邪引くなよとでも言って去るつもりが柴崎がいたのではどうも素直にそうは言えない。
 飛んでくるからかい口調を大いに苦り、これ以上とんでもない言葉が飛んでくる前に堂上は逃げを打つことに決めた。

 逃げをうち自室に戻った堂上に先ほどの柴崎以上の小牧のからかいが飛んできて「なんで知ってるんだ?」と自爆したことによりそれから逃れることができなくなったのは言うまでもない。



fin.








             相合い傘、堂上ver.です。
             小牧になぜ相合い傘のことがバレていたのかというのはおそらく柴崎情報です。
             ほろ酔い加減の小牧相手に自爆し堂上はさんざ弄られたに違いない。(笑

             2008.05.23