あ〜あこんなかわいくなっちゃって。郁にこんな表情をさせられるのはきっと堂上だけだ、柴崎は確信して思った。
郁が恋人からもらったと言うプレゼントのデジカメにその証拠はしっかりと写っていた。
次々に映し出される写真をみて堂上のショットで手を止める。率直に感想を述べた。柴崎のその言葉に郁は応える。
そして郁が横から写真を数枚送った。それを見る。そして素直な感想を述べる。心を閉ざした野生動物がうそのようだ。
こんな緩んだ堂上の顔を柴崎は今まで見たことがなかった。ああそうか。堂上にこんな表情をさせられるのもまた郁だけなのだ。それがなんだか純粋に羨ましいと感じてしまった。
恋人にしか見せない表情。いつか私にも自分にだけしか見せない表情を持った人が現れるだろうか。柴崎の脳裏にある一人の男が浮かんだが気づかないフリをした。それはたぶん、無意識にその男を自分の隣に当てはめたから。自分の都合の良い考えに心の中で苦笑した。
ああ、もしかしてあたしも笠原に影響されてる?この子の乙女度が自分にも移ってしまったのだろうか。無意識に自嘲の笑いをもらしたが隣でデジカメを一緒になって覗き込み、不意打ちで狙うのがいいのよね!と真剣に話す郁は気づかない。その様子にほっとする。
いつもの自分を繕う。これはかなりの不覚だ。
写真をまた送って思わずかぶりついた。
今まで思っていたことも忘れて写真に見入るのだった。