カミツレ図書館




     Honey kiss





 郁は扉の前で二、三度深呼吸し乱れた息を整えると取っ手に手をかけ思いきって開けた。
「堂上教官、遅くなって…」
 そこまで言いかけて郁は口をつぐんだ。そっとベッドに近づく。
 ね、寝てる?
 ベッドには静かな寝息を立て堂上が寝ていた。
 せっかく寝てるのに起こしちゃ悪いよね…。郁は近くにあった椅子に静かに腰かけた。
 音を立てないように堂上の寝顔を盗み見る。わぁ、教官の寝顔初めて見る。
 堂上が起きているときは恥ずかしくてまともに顔を合わせられないこともしばしばあるので郁はここぞとばかりに身を乗り出した。じっくりと堂上を観察できるのは相手が寝ているからだ。
 睫長い…。いつもこの唇とキスしてるんだ。
 そこまで考えたところで寝むっていたはずの堂上の目がぱちりと開いた。近すぎる距離で視線が合って郁ははっと我に返る。
 反射でドアまで飛び退いて背中を打ち付けた。
 堂上はゆっくりと上体を起こし郁を見た。
 予想外の出来事とあまりにも堂上にリアクションがないのに激しく動揺する。先程の自分の挙動を思い出して顔が赤くなるのが自分でも分かった。
「えっと…これは決して怪我人を襲っていたわけではなくてですね…」
 目を泳がせて論点のずれた言い訳を郁が言いかけたところで堂上が勢いよく吹き出した。
「なにやってんだ、お前は」
 その言葉は仕事中でもよく言われるがこんな優しい声色では郁が覚えている限り言われたことがない。
 郁が固まったまま動けずにいるとくつくつと笑っていた堂上がその笑いの山をやりすごし手招きした。その手招きに促されるままに郁は恐る恐る、堂上のベッドにじりじりと近付く。
 ベッドとの間合いが三十センチほどになったところで不意に腕を掴まれ引き寄せられた。勢いで堂上の上に倒れこむような姿勢になる。郁は堂上の負担を思い一瞬身を引きかけるがそれを堂上が逃がさないかのように郁の腰に手をやり抱き寄せた。
「会える時間がただでさえ少ないんだ。見てないで起こせ」
 耳元で堂上が苦笑する。注文される内容はのっけから甘い。こくりと頷くと堂上が腕を緩めて郁の体を少し離す。優しく微笑む堂上が視界に入り郁は真っ赤になって俯いた。
 すると堂上はからかうように甘く笑った。
「なんだ、さっきはあんな積極的だったのに」
「なっ!」
 言われて思わず顔を上げると待ってましたと言わんばかりのタイミングで堂上の顔が近づいて来て言い募ろうとした唇は塞がれた。一瞬硬直すると堂上が安心させるように背中をさする。
 侵入してきた舌にびくりと肩が跳ね郁は怯む様子を見せたが、堂上は続きをやめようとしなかった。
 目を瞑っているので堂上がどんな顔をしているかは分からないが、気配だけでなんとなく分かる。なんか知らないけど、楽しそうだ。
 唇を解放されて郁がぐったりとすると目を合わせた堂上が嬉しそうに微笑んだ。堂上は郁の頭を一撫でし頬に手を滑らせる。とろんとした潤んだ瞳で見つめると堂上は目を細めて一言「可愛い」と囁いた。
「可愛くなんて…ないです…」
「どの口がそれを言うか。俺にはそれを肯定するほうが難しいぞ」
 頬に滑らせていた手を郁の頭に戻し、堂上は優しく撫でながら郁の言葉をやんわりと否定した。
「もう…そういうこと…、言わないでください…」
 堂上からの視線を避けようとすると堂上は郁の下唇を親指で一撫でし、
「そういう反応が可愛くてやめられないんだ」
 そういう反応ってどういう反応?
 思いながらも唇に触れた堂上の指の感触にどくんと胸が鳴る。
 その瞳に声に表情に捕らわれて抗えない力で引力のように惹きつけられる。そらせない瞳をそのままにそれが堂上以外映すことを許されない。
 この人は目をそらすことさえも許してくれないんだ。ああ、やばい。そう思ったときにはもうすでに遅かった。
「教官、反則です」
 あたしはこの人の眼差しには逆らえない。郁が多少睨みをきかせて堂上を見つめれば
「何がだ。俺にはその顔が反則だ、アホゥ」堂上は再び郁に深く口づけた。









fin.








           50000hitありがとうございます!><*
           せっかくの記念SSだ!と甘いのを書いてみましたが…。
           いつも通り、オチもヤマもなくてすみませんorz
           ただひたすら堂郁がいちゃいちゃしているだけですね^^;
           一応、時期的には別冊Tで堂上の病室に郁が訪ねている設定です。
           にしても、こんなようなの昔にも書いてたらすみません;;そしてもし他所様で被っていてもすみません><;
           さ、最近ちゅーなかったし!いいよね!ってことでちゅーしすぎだコラ!っていう抗議は受け付けてますw
           50000hitだから、浮かれてるんですvvちゅー好きですみません;;
           そしていつも通りタイトルセンス皆無ですみません;;
   
           2009.01.28 初出  2009.03.08 再録