「決まったか?」
「はい」
郁が頷くと堂上はウエイターを呼んだ。
今日は二人で近場のイタリアンレストランに来ていた。昨日二人で出かけることができなかったので郁は今日誘ってもらえたのがとても嬉しかった。
陸上のメンバーで集まり大学時代の話ができるのはもちろん嬉しいし楽しいのだが堂上と過ごす時間には敵わない気がする。
オーダーをしている姿もかっこいいとか思う自分はすでに末期だ。
あーあ、なんか私ばっかりやられっぱなしだよな。
相手は自分よりも年上で恋愛経験値が高いだろうってことくらい分かってはいるのだがそれでも堂上ばかり余裕そうでずるいと思ってしまう。私はいつも一杯一杯なのに。
そして堂上が過去に付き合っていたであろう女性にさえも嫉妬している自分がいて恥ずかしい。そんなことに嫉妬しても仕方がないことくらいは分かっているのに。
加えて異性から見た自分の評価は知っているからこそ不安にもなる。
嬉しくて幸せででもちょっぴり不安、といったところであろうか。
思考が絡まり口の中が乾いた。手元に置いてあった水を一口口に含むと少し落ち着いた。
いつかのようにコップの縁からそっと堂上を窺うと目が合った。優しく微笑まれて思わず固まる。
ああ、でも今は私が堂上教官の彼女だって自惚れてもいいかな。
その優しい眼差しを向けられることは自分が堂上の特別な存在であるのだと胸を張っていいように思えて郁は自分の頬が緩むのを感じた。
しばらく二人でたわい無い話をしていると頼んでいた料理が二人分同時に運ばれてきた。
「わぁおいしそう!」
思わず郁がそう漏らすと堂上も笑って「ああ、うまそうだ」そう返した。
堂上は郁にスプーンとフォークを手渡した。二人していただきますと笑顔を交す。
談笑を楽しみながら料理を味わっているとふと堂上が話題を変えた。
「その、なんだ、最近お前によくレファレンスを頼んでくる利用者いるだろ」
「ああ!要先輩のことですか!?」
郁が間を置かずに答えられたのは自分にレファレンスを頼んでくるのがただ一人であったからだ。
「その、あんまり隙、見せるなよ」
堂上は言いにくそうに渋い顔をしてそう言った。
もしかしてこれってやきもちだったりする?郁はまじまじと堂上の顔を見つめた。
まさか堂上教官がやきもち妬いてくれるなんて。なんか、嬉しいかも。
堂上は郁の視線に耐えられなくなったのか慌てて訂正しようとした。
「まあな、その、なんだ、一応相手は男だし、お前を信用してないとかそういうわけじゃなくてだな……」
しどろもどろになりながら言葉をつなげようとするが上手い具合に話がまとまらないらしい。郁は堂上のその様子を見てクスリと笑った。
「心配しなくても、大丈夫です!」
「お前のその自信はいったいどこからくるんだ」
自信たっぷりに言う郁に堂上が頭を抱えそうになったところで郁から思わぬ発言が飛び出した。
「だって!要先輩、彼女いますし!」
そう言うと郁はスパゲッティをフォークで一巻きして平然と口に運んだ。堂上は驚いたように食事の手を止めた。
「そう、なのか」
思いの外堂上の受け答えは気の抜けた物になった。
「はい、だからそういうのじゃないですよ!」
郁は言うと無邪気に笑った。堂上の耳がほんのり赤くなっているのはきっと気のせいではない。
「なにシイタケだけよけてんだお前。好き嫌いは体によくないぞ」
先ほどの自分の発言が恥ずかしかったのか堂上の話は急に飛んだ。堂上は郁の皿の端に寄せられているシイタケを見ると話を無理矢理に転換した。
ちょ、なんでいきなりここでしいたけの話?
「ち、違います。あ、あとで食べようと思ってたんですぅー」
図星を突かれて動揺して応えると
「ほぉ。最後に残して食べるほど好きなのか。なら俺のもやる、ほれ」
堂上はそう言って自分の皿にあったシイタケを郁の皿の上のよけてあるシイタケの上に放った。
「あ、ちょ、何するんですか!?教官!」
好きだなんて一言も言ってないのに!分かっていながら間違ったほうに解釈する堂上が憎たらしい。
「嫌いじゃないなら問題ないだろ」
堂上はしれっとそう言うとにやりといやらしい笑みを浮かべた。
ちょっと、さっきの可愛らしさはどこいったんだ!
「〜〜〜意地悪!」
郁は堂上を睨みながらそう言い放つと除けてあったシイタケを一気に口の中に押し入れた。
*
「で?」
酒持参で人の部屋にいきなり転がり込んできたかと思ったらその出だしはなんだ。
堂上は眉間に皺を寄せつつ「はい、手土産」と言って缶ビールを手渡してくる小牧に怪訝な眼差しを向けた。
「で?ってなんだ」
「なにとぼけてんの。あの笠原さんの知り合い、大丈夫なの」
どうやら小牧なりに心配はしていてくれたらしい。半分は楽しんでいるんじゃないだろうなと訝しみながら、受けとった缶ビールのプルタブに指をかけ堂上は答えた。
「…とりあえずはな」
曖昧にぼかしたその答えに案の定小牧は食いついてきた。
「なに、なんかあるの?」
「いや…納得がいかないのは俺だけなんだが…」
郁がうそを言っているとも思えないがやはり堂上は要の郁に対する態度が気になっていた。
彼女持ちだと思っている分、郁の警戒心が殊に緩んでいるのも堂上の気になるところのひとつだ。
そして彼女がいようといまいとあれだけ親しくされると面白くない。郁が要を名前で呼んでいたことが一番ひっかかった。自分が呼ばれたことがないからなおさらだ。我ながらここまで心が狭かっただろうか、もはや苦笑するしかない。
ぽつぽつと小牧に話すと小牧もなにやら考える素振りを見せた。
「んー俺が見る限りでは彼女がいるようには見えないけど…」と小牧が自分の見解を述べる。正直小牧のその見解に堂上は賛成だった。郁が何か勘違いをしているという線も十分にありえる。
「とりあえずは先輩としての立ち位置でいるみたいだからどうしようもないしね。その利用者と笠原さんのことを注意して見てることくらいしか今のところないね」
小牧が難しい表情をして答えると「お姫様が魅力的だと苦労するよね」おどけた口調でそう言って締めくくった。
to be continued…
えー、一応20000打感謝記念小説です。またしても遅くてすみません;;
ていうか、コレ、いつ書いたやつだよ…orz ほんと更新遅くてすみません><;
書き終わっててもなんか気に入らなくて修正あとでするかーとか思ってるから更新がこんなノロマなんですよね;;
お待たせしてすみません(土下座)ていうかコレ、書ききれるのかな…(汗
いろいろ詰め込もうと考えてるのですが…;;もうすでに他の方のと被ったりとかしてたら本当に申し訳ないなぁ…;;
キリのいいとこーとか思ったら今回は長くなってしまいました^^;
堂上と小牧の男同士の会話が管理人は大好物です!vこの二人の会話は私は中々書けないのですが(汗
ああ、そうだ!壁紙チカチカしててすみませんー;;ここはラブラブ全開ってことで…ピンクなんです。見づらくしてすみません;;
まぁとりあえず、ここは堂郁で突っ走ってますよー!w
堂郁好きーな同士さんに少しでも楽しんでいただけますように!><
(しいたけ話捏造ですみませんー;;)
2008.12.17