通話ボタンを急いで押す。
「も、もしもし」
「郁か?俺だ」
二人きりのときの堂上の甘い声の響きに郁は面と向かって話をしているわけでもないのに顔が熱を帯びていくのを感じた。
電話でこれなんだもんなぁ。郁は真っ赤になった頬を押さえ動揺が隠しきれない声で「ど、どうしたんですか?」堂上に問いかけた。
「いや、別に何かあったわけじゃないんだが…」
歯切れが悪いその言葉に先程までの緊張はどこへやら郁に少しの余裕ができた。思わずクスクスと笑いだす。すると堂上の様子が不機嫌になったのが電話越しからでも分かった。
「なんだ?」
先程とは打って変わった堂上の低い声に「なんでもないです」と笑いを噛み殺し精一杯冷静な声を作って郁は答えた。
堂上の不機嫌そうな様子が目に浮かぶようだ。こういうところがこの人が過保護だって言われる所以であってまた可愛いところなんだよね。そんなことを思って心の中でまたクスリと笑う。まぁそれを言ったらますます不機嫌になるんだろうけど。
郁は緩んだ頬を元に戻す努力をしながら携帯に耳を傾けた。
「…じゃあ切るぞ」
そう切り返してきた不機嫌な声を遮る。
「教官、迎えにきてもらってもいいですか?」
堂上の声を聞いていたらとたんに会いたくなった。離れていたのはたいした時間ではなかったし、つい先程まで大学時代の話で盛り上がっていたので自分でも不思議だった。
「教官に会いたいな…」
意識せずに呟いた言葉に返ってきた言葉は予想外のものだった。
「…俺もだ」
さっき別れたばかりだろうと言われることくらい想像していたのに。うわ、なんかすごく恥ずかしくなってきた!嬉しさと自分が言った言葉が恥ずかしくて郁は店の住所を言うと「じゃあ待ってますね!」堂上から返事が返ってくる前に慌てて電話を切った。
電話を切り冷静になって考えてみて別に慌てて切る必要なんてなかった!と後から気が付いたが切ってしまってからではもう遅い。郁は赤くなった頬をぴしゃりと叩いた。
席に戻ると「すいません、要先輩。今日はもうこれでお開きにしてもいいですか?」遠慮がちに切り出した。要は了承の意を郁に示した。「送るよ」という申し出を丁寧に断わる。
「あ、大丈夫です。迎えが来てくれるので」
「そっか。じゃあお店の前に迎えが来るまで一緒にいるよ」
要はそう言うとテーブルの上にあった札を手にとった。
「あ、すみません」
言って郁も立ち上がる。
店を出て少し立ち話をしていると見覚えのある普通車がこちらに向かって来るのが分かった。目は良いのですぐに分かった。運転しているのは堂上だ。
堂上も分かったようで駐車はせずにすぐに店の前で止まった。
郁は立ち話を切り上げると要に軽く頭を下げ車に乗り込んだ。郁が乗り込むと堂上は車を発進させた。
「…良かったのか?」
先に口を開いたのは堂上のほうだった。前を見据えたままの態で尋ねてくる。
「はい。もう十分話できましたし」
郁がそう答えると堂上は言いにくそうに訊いた。
「確か三人って言ってたな」
「あ、もう一人は途中で用事があるって帰っちゃったんですけどそのときちょうど堂上教官から電話がきたのでそれからすぐにお開きにしちゃいました」
「そうか」
「教官の声を聞いたらすごく会いたくなっちゃったんです」
郁によって付け加えられた最後の言葉は先程とは打って変わって小さな声だったが堂上の耳に十分に届いた。
うつ向いて恥ずかしそうに言う郁は惚れたよく目を抜きにしても可愛いらしく見える。
「ハンドル握ってなかったら今すぐにお前を抱きしめるんだがな」
堂上が確認するまでもなかった。助手席に座っている郁は茹で蛸のように真っ赤になってうつ向いていた。
なんだってこの人は…。
「…二人のときの教官は無駄に甘いです」
郁が抗議めいた口調で呟くように言うと「お前が無駄に可愛いからだ」堂上はしれっと言ってのけた。
「かわ…!?」
言われて顔から火が出るかと思った。可愛いとはつい先程にも言われたが堂上に言われるとこんなにも違うものなのだろうか。
郁の様子を確認すると堂上は嬉しそうに微笑んだ。その甘い笑顔は郁には直視できなかった。
ずるい…。郁は心の中で呟くと、真っ赤になって元に戻らない顔をただただ隠すようにうつむくことしかできなかった。
to be continued…
えー、一応20000打感謝記念小説です。
堂郁路線で突っ走ってます!w
長編とか言いつつ長編にならなかったらどうしよう…(汗
短編を書くより長編を書く方が苦手だったりします;;いえ、短編も書けないんですが;;(ダメじゃん!
更新の遅い、いつ更新できるか分からないような長編ですみません><;
2008.10.28