カミツレ図書館

     Bonds 3



 郁は服を私服に着替え早足に外に出た。あまり遠くない場所で食事は約束していたがそれでも電車は使う。三人が住んでいるところはもちろん近くもなかったので必然的に三人の住む場所から平等な距離にある店になった。
 要ともう一人の人物は郁が大学時代一番に親しかった要と同じ歳の新島紗弥香という女性の先輩だ。当時は陸上部員なのに長い髪が印象的でなかなかの美人、そのわりにさばさばとした性格だったので学年問わず男子にも女子にも人気があった。紗弥香とも連絡を取り合っていたのだが郁が茨城を出てから連絡を取り合う機会も減っていた。
 店に着くと二人は店の外で郁を待っていた。
「遅くなってすいません」
 はぁはぁと息も荒く頭を下げると「そんな待ってないよ、俺たちも今来たところだし」と要が紗弥香に同意を求めつつ言った。
 二人とも変わっていない。郁の第一の感想はそれだった。なんだかそれがとても嬉しい。まるであの頃に戻ったかのような錯覚を覚えた。
「じゃ、中に入ろうか」と言う要の指示に従って郁と紗弥香は要の後に続いて店の中に入った。店を決めたのは要であったので郁も紗弥香も初めてここにくる。
 落ち着いた雰囲気でありながらどこか親しみを感じさせるこの店は要がこっちに来てからすぐに見つけ、気に入った店らしい。居酒屋なのに居酒屋っぽくないところもまた要が気に入っているところの一つのようだ。
「へぇ。いい店知ってるじゃない」
 キョロキョロと周りを見渡す郁の隣を歩いていた紗弥香が感心したような声を上げた。
「だろ?」
 要はそう言って得意げに笑った。
 席に案内されてメニューを選ぶと三人はすぐに打ち解けたように大学時代の話に花をさかせた。
「あのときのスランプは長かったよね」
 要がそう言ったのは郁が絶好調だった頃にいきなりやってきたスランプについてである。あのころうなぎ登りに調子が良かったものだから周りはもちろんのこと、郁はずいぶんと落ち込んだものだ。
「あのとき要先輩に励ましてもらったこと今でも覚えてますよ」
 郁はそう言って微笑を浮かべた。
「あのとき、一番郁ちゃんのこと心配してたの要だったもんねぇ」
 紗弥香は頬杖をつくとにやりと笑った。
「そりゃ心配もするだろ。あんだけ調子が良かったやつがあそこまで見事にスランプに陥れば」
 要は照れ隠しのようにそっぽを向いた。紗弥香はまだにやにやとしていたがそこでちょうど料理が運ばれてきたので話はいったん中断した。
 店員が下がると
「あのとき本当に落ち込んでて。でも『お前ならまた絶対タイム戻る、そしたらそのときは誰より速く走れるようになる』って要先輩が言ってくれて私の練習に根気強く付き合ってくれたから私、スランプ乗り越えられたんですよ」
 運ばれてきたサワーを一口飲んで郁はサラダに手を伸ばした。すると要は苦笑した。
「あーあ、もう。郁ちゃんてば。天然は相変わらず健在なのね」
 紗弥香はそう言うとまあ、そこがまた郁ちゃんのかわいいところなのよねと言って笑った。
「ちょ、かわいいってなんですか!?」
 赤くなる郁を簡単にいなしながら紗弥香はビールを煽った。


「さてと、私はそろそろ行くわ」
 しばらく話に花を咲かせ盛り上がっていたところで紗弥香が言いつつ立ち上がった。
「えー!、もう帰っちゃうんですか?まだいいじゃないですかあ」
 少し赤みのかかった頬をぷうと膨らませると郁は紗弥香の腕を軽く掴んだ。
「ごめんね、郁ちゃん。実は今日彼と会う約束してるのよ」
 紗弥香は郁に掴まれていないほうの手を顔の前で挙げて拝むような素振りをして少し困ったような顔をする。郁はそこで納得のいったように紗弥香の腕を離した。
 郁が思い人の堂上と付き合い始めたのはつい最近のことでそれがどんなに幸せなことなのか知ったのも最近のことである。恋人と過ごせる時間がどんなに幸せなことか教えてくれたのは堂上だ。だからすんなりとその申し出を受け入れることができた。
「それじゃあ仕方ないですね。残念だけど」
 紗弥香は郁のその様子を見ると気さくに笑ってみせた。財布から何枚か札を取りだしテーブルの上に置く。
「足りないようだったら連絡ちょうだい。余ったら次集まったときの飲み代にでもしておいて。今日は楽しかった。ありがとう。じゃあ」
 紗弥香は要にウインクをしてみせた。
「二人ともごゆっくり〜」
 意味深長な言葉を残しそのまま去っていった。要には何か思うところがあるらしく咳き込んでいたが郁には何のことだか分からないので首を傾げる。
 紗弥香の言葉を不思議に思いつつも郁は自分の腕時計を何気なく確認した。
「わ!?結構長いこと居座ってたんですね。どうします?そろそろ私達もお開きにしますか?」
 時計の針はちょうど9時をさそうとしている。一応延長届けは出してあるのでそのへんの心配はいらないがあまり遅くなると堂上に迎えにきてもらうのに気が引けた。
「んー。もう少し飲んでいかない?」
 要にそう言われ郁が悩み始めたそのときバックの中に入れていた携帯がブルブルと振動した。店内だと音の着信は分からないかもしれないとマナーモードにしておいて正解だ。おかげですぐに着信に気付けた。
 郁はすぐにバックの中に手を突っ込むと携帯を取り出した。急いで折り畳まれている携帯を開き液晶を確認する。思わず頬が緩んだ。その様子を見ていた要はそれとなく察したようで「もしかして、彼氏?」からかうように言ってきた。
 その言葉に郁は顔を赤くした。郁が赤くなったのは酒のせいだけではないということが要にも容易に分かった。郁は小さく「はい」と頷くと「すみません。ちょっと失礼します」そう言ってトイレに席を立った。




 to be continued…








           つっこみどころ満載ですいません;;
           いやもう、引っ張ったらいつまででも修正作業繰り返してそうなので思い切ってup(苦笑)
           変だなと思っても軽くスルーしてやってください(汗
           そしてまた微妙なところで切れてすみません><;
           次辺りから堂郁のオンパレードになると思いますので!
           手柴好きな方とかすみません;;ほんと私は堂郁大好き人間です^^;

           2008.010.03