カミツレ図書館









     

A beam of delight




 暗くなった外に目を向けると必死になって机にかじりつく部下の姿が窓に映っていた。机が自分の後ろなので部下の姿は自分で隠れてしまうが、それでもペンを走らせる音と必死に悩んでいる様子は気配だけでも充分分かる。
 堂上は思わず頬を緩めた。
 世間一般では今日はクリスマスで今日を大切な人と過ごしている人は少なくないだろう。しかし図書隊はもちろん休みなどではなくクリスマスだろうが通常出勤だ。
 それでも少しでも早く仕事を切り上げ、クリスマスを過ごそうと考える者も少なくなく隊員たちは早々に仕事を切り上げ定時に帰って行った。お陰で今事務室にいるのはいつも通り日報を最後まで残り書いている郁とそれを待つ堂上の二人だけだ。
 ただの部下と上官である以上、クリスマスを共に過ごせるはずもなく堂上はふっと溜め息混じりの息をもらした。それを自分の日報待ちに対してだと思い込んだようで
「すみません。もう少しで終わりますから!」
 郁は日報から目を離すことなく宣言した。
「ああ、別に急がなくていいぞ。お前の日報なんていつものことだろ」
 クリスマスだから、というわけではないが、特別だと感じる日に少しでも一緒にいたいと思う自分がいじましい。  しっかり鍵をかけ中身を厳重にしまっておいた(いや、おこうとした)箱はすでに壊(さ)れており、蓋が開きかけている。堂上自身それを無理に閉じるのをやめてしまった。もう箱を直すことはできないだろうしなにしろ直すつもりも毛頭ない。
 少しでも開いてしまったら後戻りはできないということを分かっていたから蓋を閉じる努力をするのはもうやめた。頑なだったその感情を認めてしまうとそれはひどく単純なもののように思えた。
 認めてしまえば溢れ出す感情は押しとどまることを知らない。
 彼女の言動がいちいち可愛くて仕方ない。それも自分を意識してくれているのだから堪らない。
 堂上は机の引き出しに入れておいた赤いブーツを型どった入れ物に入っているお菓子の詰め合わせを取り出した。
 クリスマスになると売られる子供向けのそれを出先のコンビニで見つけたとき真っ先に頭に浮かんだのが郁だ。思わず手に取ってレジに並んでしまったが買うのに何度躊躇したことか。結局購入してしまったがはたしてどう言って手渡したものか。
 買ったのはいいが郁がそれを喜んで受け取ってくれるかどうかは分からない。堂上はそこで数年前の記憶を呼び起こし苦笑した。

 か、書けた!
 郁は今しがた書き上げた日報に目を通し始めた。目は自分の筆跡を辿っているが、今日が何の日か分かっているので頭ではそっちばかりに考えがいってしまう。
 あたしの日報待ってくれるってことは…教官は今日約束とかないのかな。自分の都合の良い方に先走る考えを慌てて押しとめる。
 いやいやいや!今日仕事だったんだし、約束は夜かもしれないじゃん!だがそう思うとテンションが下がってくる。
 郁は日報の出来をチェックしているフリをしながら何気無くを装って堂上に声をかけた。
「あの、堂上教官、お待たせしてすみません。今日、約束とかあったんじゃないんですか?」
 今日毬江ちゃんと会う約束してるからごめん、と言って早々に切り上げる小牧に「ああ、早く行ってやれ」と返していた二人の上官のやりとりを思い出す。
 あたしに付き合ってくれるのは仕事なんだから当たり前じゃん!その当たり前の結論に行き当たって落ち込む。
 それでもただの仕事だけど、今好きな人と一緒にいられることは素直に嬉しく、堂上に悪いとは思いながらも高鳴る胸は押さえられない。
「お前こそ、なんか予定があるんじゃないのか」
「あああたしはないです!」
 堂上が苦笑する気配を感じて郁は言い訳のようにごにょごにょと付け足した。
「し、柴崎とケーキ食べるくらいです…」
 すると俯いていた郁の頭にわずかな重みがかかった。顔を上げようとするとそれは郁の机の上に置かれる。
「やる」
 堂上の低い声が上から降ってきた。置かれたそれは可愛らしいブーツを型どった入れ物に入ったお菓子の詰め合わせのようだった。
「え?これ…」
「クリスマスに頑張ったご褒美だ。図書隊はこの時期でも休みはもらえないしな」
 堂上の手がくしゃりと郁の頭を撫でる。
「ありがとうございます…」
 郁はそれを手に取ると笑みを浮かべた。
「あっ、でも私、何もないんですけど…すみません」
「かまわん。別にそんなもん。安もんだろーが、こんなん」
「いや、でも…」
「いい、気にすんな」
 よほど納得のいかない顔をしていたのだろうか
「なら仕事のミスの回数でも減らしてもらおうか」
「な!あたしそんな言われるほどミスしてますか!」
 噛みつく勢いになった郁を堂上は簡単にいなすと日報を取り上げた。
「ほら、クリスマスは今日しかないんだからさっさとお前も上がれ、アホゥ」
 な、なんか口調が優しい。そのいつもより柔らかい口調に胸がきゅんとした。
「は…い…」
 思わず赤くなって再び俯いた郁の頭にまた手がのった。今度はぽんぽんと頭上で跳ね離れていく。
 しばらく幸せに浸っていると日報に押印を済ませ、帰る身支度を始めた堂上に「ついでだ、寮まで送ってってやるから早くお前も用意しろ」と急かされ郁は慌てて立ち上がった。
 別れ際「教官、メリークリスマス!」笑顔でそう言うと堂上からとびきりの笑顔がもらえた。

 こんな笑顔がもらえるならクリスマスが休みじゃなくても充分だ。寮に戻った郁と堂上がお互いにそう思っていたことは知る由もない。







 fin.









           Happy Merry Christmas!
           ってことで、駆け込みギリギリセーフでしょうか?^^;間に合って良かった!><*
           クリスマスだし少しは甘いのいっときたいよね!w
           ってことで…甘くなってればいいのですが…。
           まぁ恋人設定ではないのであまり甘くはできませんが^^;
           時期は革命のクリスマスで!
           革命設定なのでどじょさんを少し甘めにしてみたのですが…原作イメージを壊したらすみません;;
           矛盾はあっても華麗にスルーしてやってくださいませw(コラ

           2008.12.25 初出  2009.02.18 再録